
乳がんの手術で乳房を失ったり変形した患者さんとその家族のための初めてのガイドブックが『患者さんと家族のための乳房再建ガイドブック(初版)』(2024年7月版・日本形成外科学会編)。初版から7カ月後の2025年2月に第2刷発行となっています。前回は、患者さんの素朴な疑問に専門医が答える『乳房再建ガイドブック』の見どころ、患者視点が随所にみられるその編集秘話をご紹介しました。
今回は、最近使われ始めた「三次再建」という言葉の具体的な意味や、放射線治療が再建した乳房やインプラントに与える影響についてお伝えします。
執筆/ 増田美加 女性医療ジャーナリスト

価格:定価3,080円(本体2,800円+消費税280円)
出版:医歯薬出版株式会社
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「三次再建」という言葉を知っていますか?
乳房インプラントの乳房再建が保険適用になったのが2013年。すでに10年以上経っています。保険適用となる前に、乳房インプラントによる乳房再建治療を受けた人も大勢いますが、経年的な劣化に伴う乳房インプラントの破損や被膜拘縮(インプラント周囲の被膜が過度に収縮する現象)などの不具合が起こり、再手術が必要となる患者さんが徐々に増加しています。
乳房再建手術を終え、何らかの理由で新たに乳房再建を行なうことを「三次再建」と言います。このガイドブックの第1版第2刷(2025年2月20日)に、「三次再建」について新たに紙面が追加されました。
三次再建を行なう代表的なケースはなんでしょうか?
「ひとつには、乳房インプラントの破損や被膜拘縮、健側の乳房や体型の変化によって、乳房の左右差が目立つなど経年による不具合が生じた場合です。
それ以外に、反対側の乳房にも乳がんが発症して、乳房切除や再建を行なう際に、以前に再建した乳房についても手直ししたいと希望されるケースもあります。
また、まれですが皮弁壊死(自家組織の皮弁の末梢部が血流障害により壊死する状態)後にもう一度再建を希望されるケースや、特に不具合はないが将来的なことを考慮して三次再建を希望するケースなどもあります。
三次再建にはこのほかに、まれですが皮弁壊死(自家組織の皮弁の末梢部が血流障害により壊死する状態)後に再度、別の再建法で行うケースや、特に不具合はないが将来的なことを考慮して再々建を希望するケースなどもあります」とガイドブック統括委員長の佐武利彦先生(富山大学附属病院形成再建外科・美容外科教授)。
このように三次再建に至る理由はいろいろあり、三次再建の場合は、必ずしも最初に行った乳房再建と同じ術式でないことも多くなります。乳房インプラントの再建をしている人が、再度、人工物で再建してもよいし、その反対に今度は自家組織再建を選択するのもありです。10年前よりさらに進化した脂肪注入を選択することも想定されます。
三次再建を検討される患者さんは、最初に乳房切除や乳房再建を受けたときとは、身体的、心理的な状況、価値観はかなり違っていると思います。乳房再建の技術も進化していて、以前とは違う再建を選択することも可能です。
このガイドブックで最新の乳房再建法について理解して、自身に合う再建法を選択できたらいいと思います。
放射線治療を行なっても乳房再建はできる! 知っておくべき情報
放射線治療後の早期には、乳房皮膚は炎症症状を伴い、発赤、色素沈着、角質の脱落などの急性放射線障害が現れます。一方で、時間が経過してからは、皮膚が薄く、弱くなったり、硬くなる晩期障害を併発します。
「乳房再建を計画している場合、放射線治療の時期(タイミング)が重要です。乳房再建よりも前に照射するか、それとも再建後に照射するか。これらは乳腺外科医、形成外科医と相談して決める必要があります。薬物治療、放射線治療が必要な場合、遅滞なくこれらの治療を進めるべきですが、患者さんごとに治療のタイミングがそれぞれ異なるため、ケースバイケースでの判断が必要となります。
また、放射線照射が必要な患者さんの乳房再建については、①人工物再建か、自家組織再建のどちらを選択するか、②エキスパンダー挿入後の患者さんで人工物再建を行う場合、通常はエキスパンダーを抜去後に再建してから、照射するのが一般的です。しかしエキスパンダーを挿入したままやむを得ず照射しなければならないケースもあります。詳しくはガイドブックを参考にしてください。また主治医と相談することがとても大切です」と佐武先生。
ほかにも詳しく、放射線治療と乳房再建治療についての情報が紹介されていますので、必要な人は、ガイドブックでぜひ正しい情報を確認してください。もちろん主治医と相談することも大切です。
放射線治療後の皮膚ってどんな変化がある?
「放射線治療で皮膚がダメージを受けてしまうことを心配する人の声が、私のもとにもよく寄せられます。でもしっかりケアすれば、恐れることはありません。そんなケア法についても、このガイドブックのコラムにしっかり書かれています」(佐武先生)
乳がん手術後に受ける放射線治療では、体毛が抜け、皮脂腺や汗腺(エクリン汗腺)が縮みます。時間が経つとドライスキン状態になっていきます。エクリン汗腺は、体温調節、保湿作用、感染防御の働きがあるので、この作用が低下すると皮膚を守る力が弱まります。外からの刺激に抵抗する力が減るわけです。
そんな皮膚を守るためのスキンケアにおいては、保湿がとても重要です。放射線治療後の保湿の仕方についても、わかりやすく解説されています。このように、乳房再建の医療的な解説だけでなく、セルフケアについても詳しく紹介されているのが当事者視点に立ったガイドブックであるゆえんと思います。
放射線治療後に乳房再建される人、再建後に照射される人、エキスパンダーを挿入した状況で照射される人など、放射線治療のタイミングは患者さんによって異なりさまざまです。また照射後に再建を行う時期は、急性の放射線障害が落ち着いた状況となり、通常は照射から6~12か月後になります。
ほかにも、 患者さん・家族が再建法を選択するための意思決定支援のサポートに関する「Shared Decision Making(SDM)」、
「乳房インプラント関連未分化大細胞リンパ腫(BIA-ALCL)」、「セクシュアリティ」などトピックス的な内容についても、コラムで詳しく取り上げられています。
「今、見てみると、ガイドブックの治療の説明が少し専門的と感じる部分があります。そこで、これから乳房再建を理解したい方のために、入り口用として内容をわかりやすく噛み砕いた動画コンテンツを作成中です。
出来上がった動画コンテンツと、このガイドブック、そして乳がんを経験し乳房再建をした女性たちの写真集『New Born 乳房再建の女神たち』(写真/蜷川実花 企画/NPO法人エンパワリング ブレストキャンサー 発行/赤々舎)の3つで、乳房再建の理解を深めてもらえたらと考えています。
乳がんの患者さんが乳房再建治療を行なうことによって、本来の自分を取り戻され、心も体も健やかに過ごすための助けになればと思っています。この本がその役に立てばうれしいです」と佐武先生。

『New Born 乳房再建の女神たち』
(写真/蜷川実花 企画/NPO法人エンパワリング ブレストキャンサー 発行/赤々舎)
取材・執筆/増田美加(女性医療ジャーナリスト)

取材・執筆/増田美加(女性医療ジャーナリスト)
当事者視点に立った女性のヘルスケアや医療情報について執筆、講演を行う。
乳がんサバイバーでもあり、がんやがん検診の啓発活動を行う。
NPO法人「乳がん画像診断ネットワーク(BCIN)」副理事長。NPO法人「女性医療ネットワーク」理事。認定NPO法人「キャンサーネットジャパン(CNJ)」乳がん体験者コーディネーター。NPO法人「日本医学ジャーナリスト協会」会員。
増田美加オフィシャルサイト
http://office-mikamasuda.com/
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