
『患者さんと家族のための乳房再建ガイドブック(初版)』(2024年7月版・日本形成外科学会編)は、乳房再建について、患者さんや家族向けの手引きとしては、初めてのものです。SNSやネットで玉石混交の情報が溢れる中、乳房再建について、正しくわかりやすい情報提供を目ざして本書は作られました。
その見どころ、読みどころを、乳がんを経験した医療ジャーナリストがお伝えします。
執筆/ 増田美加 女性医療ジャーナリスト

※「乳房再建ガイドブック」のテキスト全掲載は公式サイトにて、2027年7月以降を予定しています。それまでは書籍を購入してご活用ください。
https://jsprs.or.jp/general/breastrecon/index.html
保険適用から10年を越え、患者さんの要望に応えたい!
2006年に自家組織による乳房再建がまず保険適用され、インプラント(人工物)の乳房再建が保険適用になったのが2013年。ふたつの種類の乳房再建が保険適用で行えるようになって10年以上が経っています。保険適用を契機に、今まで以上に乳房再建の正しい情報が求められるようになりました。
「乳がんと診断されて、再建をするかどうか迷う…」「乳房再建はインプラントか? 自家組織か? 脂肪注入がいいのか?」「乳頭や乳輪はどうしたらいいの?」などなど。
そんな声に応えるべく、『乳房再建ガイドブック』は患者さんの回答に答える形で作成されています。ここはガイドブックの大きな注目点です!
「乳がんの治療では、十分な情報を得て、自分の判断で治療法を決める患者さんが増えました。しかしながら乳房再建では、専門家の学会として患者さんや家族の方の要望に応える手引きとなるものがありませんでした」と形成外科学会としてガイドブックを刊行した理由を話す、ガイドブック統括委員長の佐武利彦先生(富山大学附属病院形成再建外科・美容外科教授)。
患者さんの素朴な疑問に、専門の医師が回答
まず各章のはじめには、乳房再建の基本事項を図、表と、簡単な言葉でまとめたアウトラインが掲載されています。乳房再建をよく知らない人に、各章の全体像をつかみやすくする工夫です。また、それによって次に続くQ&Aがより理解しやすくなっています。
本書の編集段階では、外来診療や患者会などで、患者さんから出た300項目の質問を分類整理し、特に乳房再建を理解するために重要なものを50問ピックアップ。患者さんからの重要な質問は「PQ(Patient Question)」としてあげて、それに対する回答を「A(Answer)」として掲載しています。
たとえば、
PQ「放射線治療は乳房再建にどのような影響がありますか?」
PQ「太ももやお尻や腰部を使った再建について教えてください。」
PQ「脂肪注入はどのような患者が適応になりますか?」
など、治療についての質問に、Aと解説がついています。この回答がとても患者目線でわかりやすいのです。
そのわけは、テキスト作成に50名の医療者(形成外科医、乳腺外科医、放射線科医、ブレストケアナース)のほかに、患者さんも参画しているからなのだと思います。
さらに詳しく知りたい人のために、PQごとにQRコードが付いていて、医療者向けの『乳房再建診療ガイドライン2021年版(日本形成外科学会編)』をそのままの内容で読むこともできます。
乳房再建は、エビデンスレベルが乳がん治療ほど高くなく、ひとりひとりの状況によって治療の選択肢が異なるのが一般的です。まさに個別化治療であることを表しています。
「多くの学会から、「患者さん向け診療ガイドライン」が発刊されていますが、乳房再建においてはエビデンスレベルが高い内容は少ないのが実際です。そのため診療ガイドラインをベースにした患者さん向けのテキストは作成が難しいため、患者さんのご質問に答える様式のガイドブックとしています」(佐武先生)
作成会議で医師側からの回答「A(Answer)」の意見が割れるケースは、なかったのでしょうか?
「そのようなケースは、ごくわずかでしたがありました。その場合は、作成委員会の班長11名+統括委員長1名の意見の多数決をとりました」(佐武先生)。患者さん自身が回答を読むことで、自分に合った治療法を選択する目安を示したい、という気持ちが伝わります。
巻末には、患者さんの質問の中から PQ で取り上げはできなかったけれど、次に大切なものを簡潔にまとめたページもあります。ここも、作成委員の医療者から患者さんへの思いが感じられるところです。
術後の下着や生活のアドバイスも
さらに、この新しいガイドブックの特長としては、「術後の生活」や「下着の選び方」「術後の運動」について丁寧に触れていることが、医師向けのガイドラインとは異なります。患者さんの目線に立って治療以外にも必要なコンテンツが盛り込まれています。
「形成外科学会では、このような下着や術後の生活を取り上げることは初めてでした。乳房再建の費用についても言及しました。医師向けのガイドラインの内容を噛み砕くだけでは、患者さんに必要なコンテンツを語るテキストはできないと考えたからです。ですから、医療者向けの乳房再建診療ガイドラインをさらに超えて、患者さん視点で役立つものになっていると思います」と佐武先生。
なかでも下着の選び方は、乳房再建後の患者さんの悩みどころです。インプラント再建の人と、自家組織再建の人では、術後の注意点が異なります。自分が選択した乳房再建の術式、種類によって、ケア方法を知ることが重要です。
そのあたりにも配慮して、インプラント再建と自家組織再建の術後のケアや下着選びは、それぞれ別立てで紹介されています。かゆいところに手が届く、内容です。
インプラント再建の術後すぐの下着で注意したいことは、再建した乳房が揺れたり、擦れたり、過度に圧迫されないように、乳房をやさしくホールドできるものが勧められています。ポイントは、アンダーラインの位置があっていて、ワイヤーなしでフルカップのものであること。就寝中の寝ブラ(ナイトブラ)もおすすめです。
術後すぐの時期には、乳房インプラントの位置を固定することが大事だからです。術後6か月以降は、自分の状態にあった好きな下着を選んでOKです。自家組織再建の場合にはどうしたらいいかのアドバイスも、掲載されています。
患者さんが自分に合った乳房再建を選択できるように
作成委員の班長のひとり、棚倉健太先生(三井記念病院形成外科・再建外科)は、「統括委員長の佐武先生から、患者さん視点でPQ構成の目次案を出してください! と依頼を受け、夢中になってひと晩で目次案をつくり上げました。約2年に渡るプロジェクトで、苦労したけれど喜びも大きく、医療者、患者さんのチームで完成した本です」と編集秘話を語ります。
患者視点が随所に見られる編集で、「患者さんがどこから読んだらいいのかすぐわかるように、ページ端に爪が色分けしてつけられています。
目次以外に、患者さんが今、知りたいこと、迷っていることに、5色のツメが付いていて、この色で読みたいページを探すことができるようになっています。
たとえば、
「乳がんと診断されて、再建のことで戸惑っているあなたへ」には、乳房再建のアウトラインと乳がん治療と乳房再建について知っておきたいページに、緑色のツメが付いているので、目次から探さなくても読めるようになっています。
同様に、「乳房インプラント? 自家組織? 脂肪注入? 再建法が選べないあなたへ」
「とりあえず再建手術は終わったけれど、退院後からしばらくの間で注意することは?」
「乳房はできたけど、気になることがいっぱい。このキズあと、へこみ、私の乳頭はどうなるの?」
「再建はひととおり完了。術後の検診や長い目で気をつけていくことは?」
に、それぞれ色分けしたツメが該当ページに付いています。
「完璧で理想的な乳房再建治療は、まだこの世にはありません。人生の節目、節目でそのときのベストの再建を選べる手伝いになったら、と思ってこの本の作成にかかわりました」と棚倉先生。
「治療方針や体の状態、希望は、患者さんごとに異なります。自分に合った再建方法を考える一助としてガイドブックを活用してほしいです。しかし、ひとりひとりの患者さんすべてに必ずしも当てはまるわけではありません。乳がん治療と乳房再建、それぞれの主治医とよく相談することも大事にしてほしい」と佐武先生。
次回は、新しく使われるようになった乳房再建の「三次再建」という言葉や気になる「放射線治療後の皮膚」「インプラント再建の放射線治療の影響」についてお伝えします。
取材・執筆/増田美加(女性医療ジャーナリスト)

取材・執筆/増田美加(女性医療ジャーナリスト)
当事者視点に立った女性のヘルスケアや医療情報について執筆、講演を行う。
乳がんサバイバーでもあり、がんやがん検診の啓発活動を行う。
NPO法人「乳がん画像診断ネットワーク(BCIN)」副理事長。NPO法人「女性医療ネットワーク」理事。認定NPO法人「キャンサーネットジャパン(CNJ)」乳がん体験者コーディネーター。NPO法人「日本医学ジャーナリスト協会」会員。
増田美加オフィシャルサイト
http://office-mikamasuda.com/
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