卵巣がんは、女性特有の臓器である卵巣にできるがんです。具体的にどのぐらいの人がかかるのか、また5年生存率はどれぐらいなのか気になる方は多いのではないでしょうか。そこで本記事では、卵巣がんの女性の罹患数や5年生存率、治療法などについて解説します。
卵巣がんの罹患数
2019年に日本全国で卵巣がんとの診断を受けた女性のは13,388人です。年齢別の罹患数は、50~54歳(1,599人)、65~69歳(1,493人)、45~49歳(1,422人)と、45際歳以上が多くを占めています。
なお、同年に乳がんとの診断を受けた女性は109,980人でしたので、。これを踏まえると、卵巣がんは比較的珍しいがんに思えるかもしれません。がただし、がんにかかるかどうかにはさまざまな要因が複雑に絡み合うため、一概にかかる可能性が低いとは言えません。
出典:国立がん研究センター がん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/data/dl/index.html#a14
卵巣がんの5年生存率
卵巣がんの5年相対生存率を知るには次のデータが役立ちます。
相対生存率は、性別や誕生年、年齢の分布を同じくする日本人集団の5年後に生存している人と比べて、がんの診断を受けてから5年後に生存している人がどれぐらいいるのかを示すものです。ステージが進むにつれて5年相対生存率が低下していく点は、他のがんと共通しています。
出典:国立がん研究センターがん情報サービス「院内がん登録生存率集計結果閲覧システム (ganjoho.jp)」※2013-2014年診断例
卵巣がんとは
卵巣がんとは、卵巣にできるがんのことです。 卵巣は、表面を覆う「表層上皮」、卵子のもとになる「胚細胞」、性ホルモンを生成する「性索細胞」、「間質細胞」などで成り立ちます。発生した組織に応じて「上皮性腫瘍(上皮性卵巣がん)」、「胚細胞性腫瘍」、「性索間質性腫瘍」に分類され、中でも上皮性腫瘍が90%を占めます。
一般的に、40代から発症率が増加し、50~60代が発症のピークとなりますが、胚細胞性腫瘍については若年女性に多いといわれています。
初期の卵巣がんの初期は自覚症状が少なく、気づきにくいのが特徴的です。一方で、がんが進行すると、お腹の張りや痛み、頻尿や便秘、下腹部のしこりなどの症状が現れます。
卵巣がんのリスクを高める要因
卵巣がんの中でも罹患者数が多い上皮性卵巣がんは、次の要因でリスクが高まるといわれています。
・早発初経(10歳未満で初めて月経が起きた)
・一度も妊娠したことがない
・高齢で出産したことがある
・晩期閉経 (55歳以上での閉経)
・肥満
また、本人や家族に子宮内膜症や乳がん、結腸がんがある、母・姉妹が卵巣がんを発症している場合は、リスクが高まるといわれています。
遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)の場合、比較的若い年齢で発症しやすいため、親族に若くして乳がんや卵巣がんに罹患した方がいる場合は、検診をしっかり受け、また早めに婦人科医に遺伝性の有無などについて相談をすることが大切です。
卵巣がんの治療法
卵巣がんの治療法は、進行状態や病歴、本人の状態など、さまざまな要素を加味して選択するため、主治医から詳しい説明を受けることがとよく話し合うことが大切です。基本は、手術でなるべく多くのがんを取り除き、組織型や異型度などを踏まえて次に行う治療を決定しますが、手術で取り切ることのが難しい場合は先に薬物療法でがんを小さくすることも検討します。
卵巣がんの治療法について詳しくみていきましょう。
手術(外科治療)
初回腫瘍減量手術・進行期決定手術と呼ばれる「手術進行期や組織型などの診断および、卵巣がんをなるべく多く取り除くことを目的とした手術」を行います。残ったがんが小さくなればなるほどに予後がよくなる傾向があります。
この手術を行うことのが難しい場合には、試験回復開腹術や中間腫瘍減量手術を、妊娠能力を保持したい場合は妊よう性温存手術を検討します。それぞれの内容は次のとおり通りです。
試験回復開腹術……手術でがんを完全に取り切れないと考えられる場合に、生検による組織型の診断と、可能な範囲で手術進行期を確認することを目的とした手術
中間腫瘍減量手術……手術後に直径1cm以上のがんが残っている場合に、薬物療法と併用してがんを減らすために行う手術(他にもさまざまなケースに行う)
妊よう性温存手術……妊娠能力を保持するために、一定の条件を満たした場合に行う手術
放射線治療
卵巣がんの治療では、再発した場合にのみ症状の緩和を目的とした局所的な放射線治療を行うことがあります。初めて卵巣がんを発症した場合において、放射線治療は通常行いません第一の選択肢となることはありません 。
薬物療法
薬物療法には、手術後に行う「術後薬物療法」、がんを小さくするために行う「術前薬物療法」、手術や化学療法の効果維持・向上のために行う「維持療法」があります。卵巣がんの中でも漿液性がん という組織型は、薬物療法が効きやすい性質を持ちます。
薬物療法としては白金(プラチナ)製剤と呼ばれる薬を中心とした多剤での治療を行います。
卵巣がんの術後合併症
卵巣がんの手術後に起きる可能性がある合併症は、腸閉塞やリンパ嚢胞、リンパ浮腫などです。これらの合併症の症状は、腹痛を伴う吐き気や嘔吐、痛みを伴う発熱、発熱を伴う腹痛、脚の付け根や太もも、下腹 部のむくみ などで、赤みと腫れを伴うこともあります。
これらの症状が現れたときはできるだけ早く主治医に相談しましょう。
卵巣がんの転移・再発
転移とは、がん細胞が血液やリンパ液によって別の臓器へと運ばれ、そこで増殖する現象のことです。卵巣がんは、肺や肝臓、脳、骨などに遠隔転移することがあります。
また、再発は治療によってがん細胞が小さくなったり見えなくなったりしたものの、再び出現することを指します。卵巣がんは、腹膜や大網といった臓器の周りにある組織に広がったり、大腸や小腸、脾臓、横隔膜などに滲むように広がったり(浸潤)することがあります。
再発した場合は薬物療法が主な治療法であり、使用する薬は白金(プラチナ)製剤を使用した治療が終わってから再発するまでの期間を考慮して選択します。 原発がんに白金(プラチナ)製剤を使用後、6か月以内に再発した場合は、白金(プラチナ)製剤が効かないと判断できるため、別の薬が選択肢となります。
また、痛みや出血などの症状緩和を目的として放射線治療を行うことがありますが、脳転移の場合は予後改善を目的に行うこともあるなど、対応方法はさまざまです。
まとめ
卵巣がんの罹患数は乳がんと比べて少ないものの、女性特有のがんとして知名度が高いがんです。また、完全に手術で取り切ったと思っていても転移・再発することがあります。術後合併症の有無、その後の転移・再発などに応じて対応方法が異なるため、主治医の指示に従って検診や治療を受けましょう。
■医療監修
西 智弘 医師
2005年北海道大学卒。
室蘭日鋼記念病院で家庭医療を中心に初期研修後、川崎市立井田病院で総合内科/緩和ケアを研修。
その後2009年から栃木県立がんセンターにて腫瘍内科を研修し、2012年から川崎市立井田病院にて腫瘍内科・緩和ケアに従事。
また2017年に一般社団法人プラスケアを立ち上げ、暮らしの保健室や社会的処方研究所の運営に携わっている。
日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医。
出典:
国立がん研究センター がん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/data/dl/index.html#a14
出典:国立がん研究センターがん情報サービス「院内がん登録生存率集計結果閲覧システム (ganjoho.jp)」