
日本において大腸がんは男女共に発症しやすいがん種の1つです。本記事では大腸がんの概要説明からはじめ、根治可能な大腸がんに対する治療法に触れるとともに、大腸がん患者の方々がより良い経過を送れるように周術期のリハビリテーションポイントを解説します。
1.大腸がんとは
大腸がんは大腸(結腸・直腸)(図1)に発生するがんであり、日本人ではS状結腸と直腸に発生しやすいと言われています。大腸がんの中には腺腫と呼ばれる良性の腫瘍ががん化して発生するものと正常な粘膜から直接発生するものがあります。

2.大腸がんに伴う症状
早期の段階では自覚症状はほとんどなく、検診で発見されることも多いです。しかし、進行段階では便に血が混じる(血便や下血)、便の表面に血液が付着するといった現象が観察されることがあります。腫瘍からの出血が慢性的に続くと貧血による眩暈等の症状が生じます。他にも、腫瘍によって腸管内が狭くなることで便秘や下痢、便が細くなる、残便感、お腹が張るなどの腹部症状が出現することがあり(図2)、より進行すると腫瘍による腸閉塞を来すこともあります。
・血便・下血
・便が細い
・残便感がある
・下痢と便秘を繰り返す
・お腹が張る・腹痛
・血便
・体重減少 など
3.根治可能な大腸がんの標準治療の流れ
根治可能な大腸がんの日本での標準治療は外科的治療(手術)になります。根治可能とは手術によって眼に見える腫瘍が取り切れることを指します。手術後は手術によって失った筋力や体力の回復、術後合併症の予防を目的として、手術翌日より理学療法士や作業療法士によるリハビリテーションを行うことがあります。
手術後の経過に大きな問題がなければ、病院によって多少の違いはありますが概ね術後7日から10日程度で退院できることが多いです。退院後は大腸がんの進行度に応じて再発予防の補助化学療法(編注:再発を抑える目的で手術後に追加で行う抗がん剤治療)の実施の有無が検討されます。
補助化学療法は原則6か月間実施されます。補助化学療法の有無に関わらず、手術後は再発の有無を確認するために一定の期間において経過観察が行われます(図3)。

4.周術期リハビリテーションのポイント
大腸がんの手術後には筋力や体力が低下し、場合によっては術後合併症を発症することで筋力や体力の回復が遅延し、その結果、入院期間が延長してしまうことがあります。このようなことを予防、もしくは早期回復させるために術前、術後のリハビリテーションが重要となります。ここでは、各時期におけるリハビリテーションのポイントを解説します。
4-1.術前リハビリテーション(プレハビリテーション)のポイント
日本では術前に理学療法士や作業療法士によるリハビリテーションを受けることができるのは現状限られた施設のみであり、多くは自宅でのセルフエクササイズとなります。
【運動】
手術前の筋力や体力が低下している状態や活動量が減少している状態は術後合併症1)を発症しやすいことや、手術後の体力回復が遅延しやすいこと2)が報告されています。
在宅での介入の有効性に関してはまだ十分なエビデンスは示されておりません3)が、このような手術後の有害事象を予防するために有酸素運動や筋トレ(レジスタンス運動)に取り組むことが推奨されています。例えば、有酸素運動であれば屋外でのウォーキングが実施しやすく、歩数計(万歩計)等やスマホのアプリを使用すれば具体的な歩数が確認できるため、管理しやすいと思います。
このぐらいの歩数が良いという絶対的な指標はありませんが、別の消化器がんの患者において、手術前の歩数が5,000歩以上の方は、未満の方よりも術後合併症の発症者が少なかったことが示されています4)。
まずは5,000歩を目安にウォーキングを行い、それに慣れたら少しずつ歩数を増やしていくと良いでしょう。レジスタンス運動に関しては、立った状態での踵(かかと)上げ運動や膝の屈伸運動などの下肢を中心とした運動を20〜30回を1日複数セット実施するのが推奨されます。
手術に向けて入院してからも、手術日までじっとしているのではなく、可能な範囲で病棟内を歩くようにして活動量を維持するように心がけましょう。手術前の体力を上げておくことで、手術後に体力が低下しても低下しすぎることを抑制することができ(図4)、手術後の経過が良いものとなりやすいです。

【呼吸トレーニング】
手術前の呼吸トレーニングは手術後の呼吸器合併症(無気肺・肺炎)予防における有効性が示されています5)。呼吸器合併症は喫煙者や喫煙歴が長い方は特にリスクが高いと言われており、呼吸トレーニングは禁煙と同様に重要です。
多くの場合は手術説明の際に主治医や看護師の方から呼吸トレーニングの方法について説明を受けます。インセンティブスパイロメトリ(図5)という器具を使用し、息を吸う力を鍛え、肺を拡張させるための練習と腹式呼吸の練習(図6)を行います。
腹式呼吸は、姿勢を伸ばした状態で鼻からゆっくり息を吸い込み、腹部に空気を溜めていくイメージでお腹を膨らませます。その後、吸う時の倍くらいの時間をかけて口からゆっくりと息を吐きます。どちらのトレーニングも1日に20回程度を数セット行うことを目標に取り組みましょう。


【ベッドからの起き上がり方】
手術後の離床(起き上がってベッドから離れること)やリハビリテーションに向けての理解を深めておくことも重要です。手術後のリハビリテーションを受けることができる病院であれば主治医や理学療法士の方から手術後に向けた指導を受けることがあります。
手術後に少しでも離床やリハビリテーションを進めやすくするために、ベッドからの起き上がり方を理解しておくと良いでしょう。大腸がんの手術では腹部を切ることになりますので(術式により範囲や大きさは異なる)、ベッドから起き上がる際は腹部に力が入ると当然痛みます。
痛みは離床やリハビリテーションの最も大きな阻害要因であるため、ベッドからまっすぐ起き上がるのではなく、横向きになってから足をベッドから下ろし、腕でベッドを押しながら起き上がると少ない痛みで起き上がることが可能です(図7)。
もちろん、この方法でも痛みが強い場合はベッドのリクライニング機能を使用すると良いでしょう。普段行っている起き上がり方法と異なる方は事前に練習しておくことが大切です。

4-2.術後リハビリテーションのポイント
手術後のリハビリテーションは手術翌日より取り組むことが一般的であり、病院によっては理学療法士や作業療法士の指導の下で取り組みます。術後リハビリテーションと言っても特別なことを行うわけではありません。
【離床・歩行】
早期離床は手術後の消化管運動や体力の回復を促進することが示されています6)7)。したがって、重要なのはしっかり体を起こし、病室から出て病棟を歩くことです。手術から日にちが経過するにつれて傷の痛みも軽減しますので、日に日に体を起こす時間や病棟を歩く量を増やしていきましょう。しかし、どの程度取り組んだら良いかは手術後の状態によって異なりますので、主治医や担当の理学療法士・作業療法士に確認しましょう。
【筋トレ】
手術後の経過が問題ない場合は、手術から数日してから徐々に食事を摂取できるようになります。食事が摂取できるようになってからは歩くだけではなく、立った状態で踵上げの運動や軽めの膝の屈伸運動などの筋トレを20〜30回を1日に複数セット実施して、低下した筋力の改善を目指しましょう。手術後の下肢の筋力低下は退院後の緊急入院のリスクを増やすことが報告されています8)。
4-3.退院後のリハビリテーションのポイント
手術後の経過に問題がない場合は、手術後7〜10日程度で退院できることが多いです。この時点では筋力や体力は手術前の状態までは改善していませんので。退院後も継続したリハビリテーションが重要となります。この時期のリハビリテーションも多くの場合セルフエクササイズとなります。
【有酸素運動、筋力エクササイズ(レジスタンス運動)】
この時期には大腸がんの進行度によっては再発予防を目的とした補助化学療法を実施する方もいますが、体力や筋力が低下した状態・活動性が低下した状態の方は化学療法による副作用が出やすい可能性が報告されています9)。さらに、ステージⅢの大腸がんにおいては退院後の活動量が少ない方は再発や何らかの病気の発症による死亡リスクが高いことが示されています10)。したがって、退院後の様々な有害事象を予防するためには術前と同様にウォーキングを中心とした有酸素運動と下肢を中心としたレジスタンス運動を実施し、早期に体力や筋力の回復,活動性の向上を目指すことが大切です。具体的には、ウォーキングによる有酸素運動では、手術前と同程度の歩数を目標に取り組み、達成できたらそこから徐々に歩数を増やすように取り組みましょう。補助化学療法の副作用で体調が優れない場合には無理に行う必要はありませんが、体調が整っている日にはしっかり取り組むようにしましょう。筋力エクササイズに関しては、食事摂取が概ね問題なくできているのであれば、入院中よりもやや強度の高い運動を行うか、入院中と同強度であれば実施回数を増やして取り組むのが良いでしょう。
参考文献
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- Brown JC, et al. Association between physical activity and the time course of cancer recurrence in stage III colon cancer. Br J Sports Med. 2023;57(15):965-971.
著者プロフィール

柳澤卓也(やなぎさわ・たくや)
星城大学 リハビリテーション学部 理学療法学専攻 助教
リハビリテーション療法学を専門とする研究者・教育者。名古屋大学大学院にて修士・博士課程を修了後、現在は星城大学リハビリテーション学部で助教として学生指導や研究活動に取り組んでいます。教育現場では、講義やゼミなどを通じて、実践力と研究力の両立を目指す人材育成に力を注いでいます。がんリハビリテーション分野のさらなる発展に貢献すべく、臨床現場と研究の橋渡しを目指した活動を続けています。