がんの治療と仕事を両立させるには? 〜サッポロビール株式会社編〜

2026.01.15

日本人の2人に1人が生涯のうちにがんにかかり、そのうちの約3分の1の人が20~64歳までの働く世代といわれています。中でも、子宮頸がんや乳がんは他のがんと比べて若い世代で経験される方が多く、職場復帰に悩む方は少なくありません。
そこで今回は、がん治療と仕事の両立支援に積極的に取り組んでいる企業にお話を伺いました。どのような制度や工夫があり、どのような思いで取り組みが進められているのか。本記事が、「がんになっても安心して働ける社会」を実現するための一助になれば幸いです。ぜひ、お勤め先の人事担当の方ともシェアしてみてください。

Profile
サッポロビール株式会社 人事総務部の皆さん

「人財の活躍」をサステナビリティの重要課題の一つと位置づけ、多様な施策を展開しているサッポロビール株式会社。同社では2017年、従来から進めてきた治療と仕事の両立支援をさらに発展させ、「がんなど治療と就労の両立支援ガイドブック」を作成しました。さらに2019年には、がん経験者による社内コミュニティ「Can Stars(キャンスターズ)」を立ち上げ、その活動の一部を社外にも展開しています。

今回は、これら一連の取り組みの中心人物であり、頸部食道がんの経験者でもある人事総務部プランニングディレクターの村本高史さん(写真右)と、人事総務部 人事企画・ダイバーシティ推進グループリーダーの高田塁さん(写真左)にお話を伺いました。

がん経験を原動力に、治療と就労の両立支援を推進。がん経験者の社内コミュニティを設立し、ノウハウの一般公開も

― サッポロビールさんが、がんの治療と仕事の両立支援を推進されるようになった背景には、村本さんご自身のご経験があると伺いました。まずは、その経緯を教えてください。


村本:私は2009年に初めて頸部食道がんが見つかり、2011年に再発しました。手術の結果、声を失いましたが、食道発声を習得する過程で、声帯を失いながらも明るく懸命に生きている方々と出会い、「生きてさえいれば、何とかなる」という大きな勇気と希望をもらいました。

また、3か月以上、会社を休んだにもかかわらず、温かく職場復帰を迎えてくれた会社や仲間の存在がありました。その経験から、「自分にできることがある」と感じ、2014年以降、社内で闘病体験を語る会の開催や、治療と仕事の両立支援策の推進、中間管理職を中心とした対話の場づくりに、結果的に約5年にわたり取り組みました。

同時に、国立がん研究センターの患者市民パネルにも参加し、医療者や他のがん経験者とのつながりを持つ機会も得ました。

転機となったのは2017年です。健康保険組合のデータから、社内に想定以上に多くのがん治療中の社員がいることがわかりました。支援を必要としている社員や上司が必ずいるはずだと考え、治療と仕事の両立支援ガイドブックを作成しました。

さらに2022年には、がんに罹患した当事者の声を何よりも大切にしながら改訂を行い、「本人向け」「上司向け」「同僚向け」の3種類を制作し、社内外に公開することにしました。

サッポロビールさんが社外に公表している資料はページ下部のリンクから参照ください

― 2019年3月にはがん経験者の社内コミュニティを作られていますね。


村本:はい。個人として活動を続けるなかで、他社が社内コミュニティを立ち上げたという話を聞き、大きな感銘を受けました。「自社でもできないだろうか」と思い、実際に他社の会合も見学した上で社内の仲間に相談したところ、「ぜひ参加したい」「手伝いたい」という声が集まりました。

人事部門や経営層に提案したところ、もともと風通しがよく、温かい企業風土があったことや、健康経営、ダイバーシティ&インクルージョンの推進にも合致することから、承認を得ることができました。

「Can Stars(キャンスターズ)」は、当初は社内のがん経験者本人を対象としていましたが、現在ではがん経験者の家族や遺族も参加対象としています。

活動の柱は3つあります。1つ目は、がん経験者同士によるピアサポートで、ほぼ隔月で集まり、体験や思いを共有しています。2つ目は社内の意識啓発で、「Can Starsカフェ」と称し、一般社員向けに昼休みを活用したオンライン発信を行っています。3つ目は、社外の同様のコミュニティとの交流を通じて、社会へのインパクトを生み出すことです。

2022年には、「生きている喜びを心から実感できるビールをつくろう」という想いのもと、社外から参加者を募り、延べ250名で製品づくりにも挑戦しました。

設立から5年が経ち、これまでの活動で得た知見を「企業内がんコミュニティ立ち上げ・運営ガイドブック」としてまとめ、公開しています。参考になる部分があれば、ぜひ活用していただければ嬉しいです。

がんの治療と仕事の両立支援のポイントは「制度」よりも「対話」

―「休職職場応援ポイント制度」も新設されたそうですね。前向きなネーミングが印象的です。


高田:ありがとうございます。この制度は育児休業の場面で使われることが多いのですが、休業期間が長くなるほど、本人が「周囲に迷惑をかけて申し訳ない」と感じ、休む期間を希望よりも短くしようとする傾向があります。

そこで、業務を引き継ぐ側の社員の賞与に「応援ポイント」を付与し、少しでも上乗せする仕組みを導入しました。お互いが気持ちよく「休む」「支える」ことができる環境をつくりたいという思いから、2024年に運用を開始しています。


― やはり、制度面を整えることが両立支援において重要なことなのでしょうか。


高田:制度の充実も必要ですが、どれほど良い制度があっても、対話がなければ信頼関係は築けず、制度は形骸化してしまいます。
そのため当社では、定期的なアンケートの実施や、上司に直接話しづらい場合の相談先として、人事担当者、保健師、産業医など、複数の窓口を設け、コミュニケーションを取りやすい環境づくりを心がけています。


村本:私が社外でお話しする際に必ずお伝えしているのは、「サッポロビールは特別な会社ではない」ということです。社員との対話を重ねながら、できそうなことを一つひとつ積み重ねてきただけです。 対話は会社の規模に関係なくできますし、むしろ中小企業のほうが密なコミュニケーションを取りやすい場合もあります。意外にアナログな、フェイストゥーフェイスの対話こそが大切だと感じています。


― 実際に両立支援の取り組みを行う中で、社員の方からどのような声をいただくのでしょう。


高田:両立支援ガイドブックに関してはすでに一定程度浸透しているようで、「もうすでに知っている」という声をよく聞きますね。Can Starsについては、「改めてこの会社はがんになっても働き続けられる会社だということがわかって安心した」、「誇りに思える活動をしている」といった声が一般社員から上がってきています。
外部からの表彰なども社内共有していますが、そうした取り組みを通して会社と社員の間の信頼感を強固にする一助になっている手応えを感じられますね。

機を逃さずに、できることから始める

― 最後に、がんの治療と仕事の両立支援に悩む方にメッセージをお願いします。


村本:企業側にも当事者の方にも共通してお伝えしたいことが3つあります。

1つ目は、「決して一人ではない」ということです。余裕がなくなると視野が狭くなりがちですが、誰かに話したり、他社の事例に触れたりすることで、思い詰める状況を避けられると思います。必ず相談できる人や相談先はいますし、あります。

2つ目は、「できることからやる」ことです。いきなり大きなビジョンを掲げる必要はありません。自分にできることや自社に合ったことを一つひとつ丁寧に積み重ねていけば良いと思います。

3つ目は、「流れに乗る」ことです。私自身や当社の取り組みも、たまたま思いついたことや、耳にした他社事例がきっかけでした。心が動いた瞬間を逃さず、行動に移すことが、実は一番大切なのではないかと思っています。


高田:今は多くの情報が発信・公開されているので、誰かを手本にするのも有効です。実は「休職職場応援ポイント制度」も公開されている他社情報を参考にして当社に合った形に作り込みをしています。

なので、制度設計ということでしたら、当社で公開している資料を議論の土台にしていただけると嬉しいですし、お問い合わせいただければ何かお役に立てることがあるかもしれません。

また、全国47の都道府県に設置されている産業保健総合支援センター(さんぽセンター)に相談すれば、いろいろと力になってくれると思います。


―ありがとうございます。最近では人的資本開示が加速、深化し、客観的な物差しで他社と比較される時代を迎えるだろうという風潮もあります。そうした中で、社員が安心と誇りを持って働ける企業というのは人材確保の観点でも優位性を保てるのではと感じました。

サッポロビールさんが公開している情報や行政をうまく活用することで、設計にかかる時間を短縮し、その分を自社の強みの深堀りと、対話の時間にあてていただきたいと感じました。

【参考リンク】(サッポロビールの企業サイトへのリンク)
「がんなど治療と就労の両立支援ガイドブック」を両立経験のある社員の声を取り入れバージョンアップ

がん経験者の社内コミュニティ「Can Stars」の5年間の活動ノウハウを活かした「企業内がんコミュニティ立上げ・運営ガイドブック」を公開


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