がんの治療と仕事を両立させるには? 〜LINEヤフー株式会社 編〜

2025.06.25

日本人の2人に1人が生涯のうちにがんにかかり、そのうちの約3分の1の人が20~64歳までの働く世代といわれています。中でも、子宮頸がんや乳がんは他のがんと比べて若い世代で経験される方が多く、職場復帰の悩みを抱えている方は少なくありません。
そこで、がん治療と仕事の両立の支援制度を進めている企業に、具体的にどのような取り組みを行っているのかを伺ってきました。少しずつでも社会全体ががんになっても安心して働きやすく変わっていけるよう、お勤め先の人事の方にもぜひシェアしてみてくださいね。 

Profile
LINEヤフー株式会社グッドコンディションサポート部の皆さん

グッドコンディションサポート部は「社員のパフォーマンス発揮はプロダクトドリブンの大きな原動力になる」という企業姿勢を健康面から支える部署。食事や健康などに関する4部門を統括している部長の加茂隆さん(写真左)、医療職チームのマネージャーである保健師の安武麻美さん(写真右)、同じく保健師の黒川知子さん(写真中央)にお話を伺いました。

労働人口の減少、多様化が進む社会で、がんになってからも安心して働ける会社であることの意義

― 企業が、がん対策に取り組むことで、従業員の方々、そして会社全体にとって、どのような良い影響をもたらすと期待されていますか?


加茂:高齢化に伴い労働人口の減少が進む日本では、近年、働き方も大きく多様化しています。こうした時代の流れを踏まえると、がんを経験した社員に寄り添う姿勢は非常に重要だと考えています。

「会社がこんなことまで気にかけてくれているんだ」と社員が感じられるような取り組みを積み重ねることで、働く側に安心感が生まれ、それがパフォーマンスの向上につながります。

結果として収入が安定し、経済的な不安が軽減されます。そして会社側にとっても、生産性の維持につながると思います。これは、長期的に見て双方にとっての「win-win」な関係だと思います。

― MICIN少額短期保険の調べによると、がん発覚時に仕事に就いていた方のうち、98%が手術後も働きたいと考えていたそうです1。働くことが生きがいになる、がん治療の苦しさや将来への不安感を忘れさせてくれる、という声も多く聞きます。労使の信頼関係があるというのは仕事の質に関わるとても重要な要素だと思いますし、採用コストや教育コストなどの面で企業側にもメリットがあると感じます。では、具体的な取り組みについて教えてください。


安武:LINEとヤフーが合併したのは2023年10月ですが、がんの治療と仕事の両立支援制度のベースは2017年にヤフーで作られたものになっています2

当時から医療職のメンバーがいて、一次予防、二次予防として、e-ラーニングを用いたがん教育、禁煙の推奨、精密検査を含む各種がん検診の費用補助を継続しています。

e-ラーニングに近い直近の取り組みとしては、昨年からランチョンセミナーを新たに開始していて、ランチ時間を利用して乳がん検査の方法や、子宮頸がんの初期症状や子宮頸がんワクチンの基礎知識など、外部コンテンツを取り入れながら学ぶ機会を提供しています。

黒川:がんの治療と仕事の両立支援では、両立支援ガイドブックを自社で制作しており、その改訂を昨年度行いました。主治医と情報連携を行い、ご本人が働く上でどのような配慮が必要か確認しながら業務調整を行います。

また、化学療法等の治療スケジュールに合わせて、特定曜日の休暇(無給)が取得できる「えらべる勤務制度」や、フレックス勤務での時短制度、固定勤務での時差勤務も選択できます。

両立支援ガイドブックの目次

社内患者会「キャンサーサロン」を発足

黒川:さらに、「キャンサーサロン」という社内患者会も昨年から開始しました。がん対策推進企業アクションに参加されている他社事例を参考にさせていただき、社員同士でピアサポート(相互支援)ができる環境を整えたいことから設立しました。

開催ペースは2か月に1度、治療中ですと感染症リスクもありますので、Zoomを活用して業務時間外で集まる機会をつくります。会話のテーマを決めて、グループに分かれて話をしていただくのですが、もちろん匿名でも参加可能です。

「どうやって上司に相談しましたか?」とか「治療と仕事の両立はどんな風にしましたか?」など相談がなされ、参加者からは「仕事復帰やその後の働き方のロールモデルとなる先輩方がいるのは心強い」と声をいただいています。今後はオンラインとオフライン含めたハイブリッド開催もできると良いなと考えています。

― 医療者、家族、患者会とはまた違い、治療と仕事の両立という視点で直接的なヒントが得られる交流が生まれているようですね。社員同士の連帯感を感じられる仕組みがあることで、がんによるびっくり退職も起こりにくくなるように感じます。それにしても前例が多くない中、立ち上げるのはとても大変だったのではないでしょうか?

安武:がん対策推進企業アクションで情報を集めたほか、企業内がんコミュニティの立ち上げについて公開されている先行事例を参考に、手探りで立ち上げました。元々健康経営に対する意識の高い企業風土があったことも追い風になりました。

加茂:「この取り組みをどうしても実現したいんです」という黒川の熱意あふれる提案を受けたときは、本当に嬉しく思いました。非常に画期的なアイデアでしたし、同じような状況にある人たちが互いに勇気を持てるきっかけになればと、「ぜひやってください」と背中を押すことを決め、社内での合意形成も迅速に進めました。

健康相談を気軽にできる企業風土づくり 

― 企業風土のお話がありましたが、持病があることを職場に伝えるのは勇気のいることだと思います。相談しやすい雰囲気を醸成するためにどんな工夫をされてきたのでしょう?

安武:正直なところ、当社でも「健康相談窓口に行ったら休職を勧められるのでは?」と心配する声が一部で見られました。これを劇的に変える特効薬のような工夫はありませんが、親しみを感じてもらいたい一心で、日々地道に発信し続けることが何よりも大切だと感じています。

社内で使用しているチャットツールでは、人柄が伝わるようなコメントや写真を投稿するなどして、時間をかけて心理的な安全性を少しずつ高めてきました。並行して医療者からの情報として人事担当者、管理職への研修も行いましたね。

今では大きな病気に関することだけでなく、健康診断に関するちょっとした質問でも気軽にしてもらえるようになってきていて、手応えを感じています。

―御社ほどの規模の会社でも日々の地道な取り組みが大切なのですね。

加茂:そうですね。まだがん対策に力を入れている企業は決して多くなく、得られる情報も限られています。制度設計について社内の理解を得るのが難しい場面も、もしかしたらあるのではないかと思います。私たちも階段を上がり始めたばかりです。

ただ、高齢化に伴い労働人口が減少している中、企業にとって人材はこれからますます大切な財産となるはずです。大きな制度変更にはかなりの時間と労力を要すると思うので、既存の制度の延長で利用できるものがないか検討するところから始めていくことが、企業の将来にとってもプラスになるのではないでしょうか。両立支援の輪が社会全体に広がっていくことを願いつつ、私たちも頑張っていきたいと思います。

黒川:私の立場からお伝えするのはおこがましいのですが、社員の立場でもし治療と仕事の両立に悩まれている方には、どうか一人で抱え込まずに、ぜひ周りの親しい方、職場の上長や人事担当者、医療スタッフなど誰でも構いませんので、お話できる範囲でお声掛けをしていただければと思います。

―ありがとうございます。企業規模の大小にかかわらず、働く意思がある人をどうやって支えていくか。そこに真摯に向き合う企業がこれからの時代に必要とされていくのだろうと感じましたし、取り組みを形にしていくためのヒントもたくさん教えていただくことができました。

がん治療と仕事の両立を支援している民間団体もあるので、ぜひアクセスしてみて、労使ともに手を取り合っていける社会になることをWith Mi編集部も願っています。

【参考リンク】
LINEヤフー株式会社 DE&I、働き方、Well-being(外部リンク)

がん対策推進 企業アクション(外部リンク)

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  1. 3月8日の国際女性デーを前に調査 がんを経験した女性の仕事復帰 最多は「手術後1か月未満」~体調管理と仕事の両立で心がけていること 1位「ストレスを溜めない」~(MICIN少額短期保険)
    https://micin-insurance.jp/news/release/20250228/1034  ↩︎
  2. 「がん対策推進企業アクション」(厚生労働省)パートナー企業・団体、パートナー企業・団体コンソノート一覧、ヤフー株式会社(外部リンク)
    https://www.gankenshin50.mhlw.go.jp/partner/activity_200127_new.html ↩︎

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