子を持つ家庭にとって、がんという病気や今後の治療について我が子にどう伝えるかは大きな課題。実際、こんな声を聞くことも少なくありません。
「子どもにがんのことをどう伝えたらいいのかわからない」
「子どもからがんについて聞かれたら、どう答えたらいいの?」
そんな時におすすめしたいのが絵本です。
子どもに絵本を読み聞かせたり、伝え方の参考にしたりすることで、親子で一緒にがん治療の準備をすることができます。さらに幼いながらに病気のことを理解し、不安の緩和につながるかもしれません。
国内外を問わず、がんをテーマにした絵本がたくさんある中から、今回、乳がんになったお母さんを描いた「おかあさん だいじょうぶ?」や、がんに対する子どもの疑問に1つずつ回答する「ある日、お父さんお母さんが がんになってしまったら」など5冊をセレクトしました。ぜひ活用してみてください。
抗がん剤治療中の親子の日常生活を娘の目線で描いた「ママのバレッタ」
長い髪の毛のお母さんはバレッタが大好きでしたが、抗がん剤治療が原因で髪の毛を失ってしまいました。バレッタを使えなくなったお母さんと、娘とのやりとりをやさしいタッチで描いたのが「ママのバレッタ」です。がん経験者にとっての日常生活を、明るいユーモアを交えながら娘の視点で描いています。
この絵本は子育て中のがん経験者のコミュニティサイト「キャンサーペアレンツ」によって作られました。「がんを子どもに伝えることが難しい」「伝えた後、子どもたちをどうフォローしていけばいいのか」で悩んでいるがん経験者同士が、意見を出し合い企画。さらにがん患者にもあたりまえの日常が存在することを多くの人に知ってもらいたい、がん経験者を特別な存在とせずに多くの人に理解を深めてもらいたいという思いも込められています。
がんは長期間向き合うことになる病気だけに、子どもに隠しながら闘病するのは困難といえます。だからこそ子どもの発達段階に合わせて病気を知ってもらうことが大切。がんと診断されてこれから抗がん剤治療を始める方、現在治療中の方に、子どもと一緒に読んでみてほしい絵本です。
子どもが母親の闘病生活を描いたノンフィクション体験記「おかあさんが乳がんになったのOur Mom Has Canser」
乳がんの治療で髪が抜けてしまったお母さんの闘病生活を、11歳の「アビゲイル」と9歳の「エイドリアン」という姉妹が描いたノンフィクションの体験記。家族ががんになったとき、子どもたちは敏感に周囲の変化を感じて、この先何が起こるのか不安になることもあります。周囲に間違った情報が飛び交い、分からないことだらけだったりすると、子どもの恐怖心や妄想はいっそう膨らんでいき、精神的な負担が大きくなることもあるでしょう。このような場面に直面して動揺している子どもたちをどうサポートしたらいいのか、今後のことをどう伝えたらいいのかを教えてくれる絵本です。
姉妹は、がんになったことをお母さんから告げられました。怖くて心配になった2人は、これからどんなことが起こるのか書かれた本を探しましたが見つかりませんでした。そこで自分たちで文章はもとより絵も描くことに。完成したのが、「おかあさんが乳がんになったのOur Mom Has Canser」。
姉妹は、同じ状況にある子どもと自分たちの経験を分かち合いたくて絵本を作ったといいます。絵本には、闘病生活のなかでも失われないたくましさ・快活さ・ユーモアもあり、涙が出る場面もあり。闘病生活をお母さんとともに乗りこえることで、強まっていく家族の絆も描かれています。子どもだけでなくお母さんや家族にとっても、子どもへの接し方を考えるヒントになりそうです。
がんと闘うママをかいぞくに見立てて伝えるハートフルメッセージ「ママはかいぞく」
幼い子どもは、病気について言葉で説明されても理解できないケースが大半でしょう。乳がんをどう伝えたらいいのかと絵本を探した作者でしたが、暗いテーマの絵本しかなかったため、息子の大好きなかいぞくに見立ててこの「ママはかいぞく」の執筆に至りました。
「カニなんてへっちゃら号」という船に乗り、宝の島を目指して仲間と旅を続ける「かいぞく」のママの姿が、幼い息子の目線でコミカルに描かれています。海賊として大きな海に立ち向かうママは、実は乳がんと闘病するママ。手術した胸の傷のことを「はじめての戦いでできた傷」、抗がん剤治療の体調不良を「海があれて船がすごく揺れすっかり酔っちゃった」と説明。さらに髪の毛が抜け落ちた頭にバンダナを巻くのは「かいぞくはシラミがつかないよう剃るのよ」と伝えたりするなど、がん治療をかいぞくの体験に比喩しているのが特徴です。
乳がんと闘うママの話ではあるものの、絵本には「がん」の言葉が一度も明示されていません。表向きは海賊の話で、読み進めていくうちにがんと闘っていることが判明する仕掛けです。お母さんが海賊になりきって、子どもに読み聞かせるのもいいでしょう。
乳がんのお母さんが子どもに伝える前に読んでほしい1冊「おかあさん だいじょうぶ?」
「乳がんになったことを幼い我が子にどう伝えるべきか」
とお悩みのお母さんがいらっしゃると思います。一方で、お母さんの様子がおかしいけれど何が起きているのかがわからず、不安に駆られる子どももいるでしょう。そんな家庭にご案内したい絵本が、「おかあさん だいじょうぶ?」です。
病院から家に帰ったお母さんは普段よりも疲れていて、一緒にお風呂に入ってもくれないし、抱っこしてくれません。「お母さんの様子がいつもと違うけれど、どうしたのかな?」(あらすじより)と異変に気づいた子どもの視点で、日常生活がつづられています。やさしいタッチの絵を交えながら乳がんのことをわかりやすく説明しており、幼い子どもでも理解しやすいのが特徴。お母さん・お父さんが乳がんの治療に対して前向きに取り組む手助けもしてくれそうです。
両親のがんに関する子どもの疑問を解消「ある日、お父さんお母さんが がんになってしまったら」
自分または配偶者ががんになり、子どもにどう伝えたらいいのか……。「ある日、お父さんお母さんが がんになってしまったら」は、そんな場面で手に取ってみてほしい1冊です。
多くの子どもが、がんとはどういう病気なのかを具体的に知らないでしょう。
「どうしてがんになっちゃったの?」
「わたしもがんになっちゃうの?」
「親のがんのことを、友達に話した方がいい?」
など、がんに対する素朴な疑問を1つずつ丁寧に回答していく構成です。
治療の意味や、治療には手術、投薬(化学療法)、放射線療法があること。がんは誰でもかかる病気であり治療を受けて回復した人々がいること。さらに、万が一この世を去ることになってしまった後の世界のことも、子どもでも理解できるようわかりやすく書かれています。親御さんもがん=マイナスと捕らわれることなく、子どものために命をどう生かすか、どう接すればいいのかなどの方法を学ぶことができるのもポイントです。
絵本は「本当のことをやさしく、きちんと伝えてくれる」という側面も持つため、子どもが病気を理解し、命の尊さなどを学べるのも魅力です。子どもの不安を解消して、心穏やかに過ごせるよう活用してみましょう。