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遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC) とは?発症する確率や検査・予防について解説

2024.04.30

遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC =Hereditary Breast and Ovarian Cancer syndrome)は、遺伝性のがんの種類の1つです。人種や病的バリアント(がんに関わる変異)がある遺伝子の種類によって異なりますが、HBOCの場合、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、膵臓がん、悪性黒色腫(皮膚・眼)の発症率が上がるとされています。

本記事では、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)の症状や検査、予防などについて詳しく解説します。

遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)とは

遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)とは、DNAを修復する働きを持つ遺伝子の「BRCA1」と「BRCA2」のいずれか、または両方にがんの発生しやすさと明らかに関連がある変異(病的バリアント)を持っていることが原因で発生するがんです。HBOCの方は、乳がん、卵巣がん、すい臓がん、前立腺がんなどの発症リスクが高いと言われています。

なお、BRCAに変異を持っているからといって、必ずしも乳がんや卵巣がんなどになるとは限りません。

そもそもがんと遺伝の関係とは

がんの発生には、次のような要因があります。

  • 遺伝要因
  • 環境要因
  • 時間(年齢)
  • 偶然

遺伝性のがんは、発症リスクに遺伝子の特徴が強く関連しているタイプのがんです。遺伝子は子へと受け継がれる場合があります。どの遺伝子に変異が起きているのかによって、発症しやすいがんの部位や種類が異なります。HBOC以外の遺伝性のがんと関係している遺伝子と、関連性があるがんの例を紹介します。

名称関係している遺伝子関連性があるがん
遺伝性乳がん卵巣がん症候群BRCA1
BRCA2
乳がん
卵巣がん
前立腺がん
膵臓がん
悪性黒色腫(皮膚・眼)
※人種や遺伝子の種類で異なる
リンチ症候群MLH1
MSH2
MSH6
PMS2
EPCAM
大腸がん
子宮体がん
胃がん
尿路系上皮がん
卵巣がん など
リー・フラウメニ症候群TP53軟部組織肉腫
骨肉腫
脳腫瘍
副腎皮質がん
乳がん(特に閉経前に発症)など
カウデン症候群/PTEN過誤腫症候群PTEN乳がん
子宮体がん
甲状腺がん
大腸がん
腎細胞がん

家族歴が参考になる

家族や親族が遺伝性のがんになっている場合は、自身も遺伝性のがんを発症する可能性が高まります。ただし、家族や親族にがん経験者がいるからといって、必ずしもそれが遺伝性のがんだとは限りません。しかしながら、家族や親族にがん患者がいるかどうかは、遺伝性のがんのリスクを考える上で役立つ情報です。

家族歴を調べるときは、家系図を作成して遺伝子の共有状況を把握することが大切です。第1度近親者(父母、きょうだい、子ども)は50%の遺伝情報を共有し、第2度近親者(祖父母、おじ、おば、おい、めい、孫、異父きょうだい、異母きょうだい)は25%、第3度近親者(曾祖父母、いとこ)は12.5%を共有します(第◯度近親というのは、法律上の一親等、二親等などとは別の定義)。

可能であれば該当する家族や親族に、遺伝性のがんと診断されているかも確認しましょう。発症部位や年齢などの情報とともに、家族歴を調べて医師に相談することで、遺伝性のがんの発症リスクについて、詳しい話を聞くことができます。

遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)が疑われるケース

以下1つでも該当する場合は、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)の可能性があります。

  • がんの発症の有無を問わず、BRCA1・ BRCA2遺伝子の検査を受け、病的バリアントを持つ血縁者がいる
  • 自身が乳がんと診断されていて、さらに下記いずれかに当てはまる
    (1)45歳以下で診断された
    (2)両側の乳がん(発症が同時、異なる時期のいずれも含む)と診断された
    (3)片方の乳房に原発性の乳がんが複数回発生している
    (4)60歳以下でトリプルネガティブの乳がんと診断された
  • 乳がん、卵巣がん、膵臓がんの血縁者がいる
  • 自身が卵巣がん・卵管がん・腹膜がんと診断された
  • 自身が膵臓がんと診断されており、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、膵臓がん、悪性黒色腫のいずれの診断を受けた血縁者が2人以上いる
  • がんゲノムプロファイル検査(がん遺伝子パネル検査)によって、BRCA1、BRCA2遺伝子の病的バリアントを生まれつき持っていると判明した
  • 自身が男性で、乳がんと診断された
  • 自分が前立腺がんと診断されており、乳がん、卵巣がん、膵臓がん、悪性黒色腫のいずれかの診断を受けた血縁者が2人以上いる

遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)の検査の流れ

HBOCの検査の流れは以下のとおりです。

  1. HBOCの可能性がある場合、遺伝学的検査によって、BRCA1とBRCA2の病的バリアント(がんに関わる変異)の有無を調べる
  2. これらの遺伝子に病的バリアントが認められた場合に、HBOCと診断される
  3. 本人に病的バリアントが認められた場合は、がんを発症していない人を含む血縁者も検査を受けることができる

検査は、保険適用の場合と自由診療の場合があります。

断されたがん保険適用となる方の基準自由診療となる方
乳がん・60歳以下でトリプルネガティブの乳がんの診断を受けた
・乳がんと診断されたのが45歳以下
・2個以上の原発性乳がんがある
・第3度近親者(曾祖父母・大おじ・大おば・いとこなど)に乳がん、卵巣がんの診断を受けた人が1人以上いる
・男性の乳がん
・近親者にBRCA1、BRCA2の遺伝子変異がある
・乳がん、卵巣がんを発症していない血縁者
・保険適用となる方の基準を満たしていない方
卵巣がん・卵管がん・腹膜がんすべての方
膵臓がん・前立腺がんPARP阻害薬オラパリブに対するコンパニオン診断の適格基準を満たしている方

現在では、病的バリアントを持っているがん未発症の方の検診や予防治療はすべて自費診療になりますが、保険適用はを目指す動きも出てきています。
また、 遺伝性腫瘍の疑いがある場合、自身の兄弟や子どもに対してその事実を告げたり、検査や経過観察を進めていくことの中には、彼ら彼女らの人生への大きな影響や、心理的葛藤、倫理的問題など様々な問題がからむ場合が多いため、「認定遺伝専門医」や「認定遺伝カウンセラー」が対応できる専門機関を受診されることをお勧めします。
そういったカウンセリングについて、どこで受けられるかについては、かかりつけの医療機関がある方は、まず、そちらで相談されるのが良いとは思いますが、相談する場所がない場合や、それが難しい時には、全国遺伝子医療部門連絡会議のホームページにある「遺伝子医療実施施設検索システム」から調べることができます。

遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)とわかった場合の対策

遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)とわかった場合、早期発見・早期治療を目指すために行動することが重要です。18歳以降では乳房の自己検診、25~29歳では半年~1年に1回は視触診、さらに 1年に1回は造影乳房MRI検査を受けましょう。なお、血縁者に30歳未満で乳がんの診断を受けた血縁者がいる場合は、頻度や検査内容について個別で判断されます。

30~75歳では半年~1年に1回の視触診に加えて、年1回はマンモグラフィを受けることが望ましいとされています。75歳以上においては、個別に話し合った上で対策方法を決めます。

まとめ

遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)は遺伝性のがんです。自身が発症したがんが遺伝性かどうかを考える際は、家族歴が参考になります。また、治療方針を決めるために遺伝的検査が有効になる場合もあります。今回、解説した内容を参考にHBOCについて理解し、主治医と話し合った上で今後の対応について決めましょう。

■医療監修

西 智弘 医師
2005年北海道大学卒。
室蘭日鋼記念病院で家庭医療を中心に初期研修後、川崎市立井田病院で総合内科/緩和ケアを研修。
その後2009年から栃木県立がんセンターにて腫瘍内科を研修し、2012年から川崎市立井田病院にて腫瘍内科・緩和ケアに従事。
また2017年に一般社団法人プラスケアを立ち上げ、暮らしの保健室や社会的処方研究所の運営に携わっている。

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