
乳がん治療後の痛み・しびれ・こわばりは、手術・抗がん剤・ホルモン療法のそれぞれで原因が異なり、時間とともに軽くなる場合もありますが、長く続くこともあります。原因を知ってセルフチェックとセルフケアを行うことで、日常生活への影響を減らせる可能性があります。気になる症状は、我慢せず主治医や医療スタッフに相談しましょう。
乳がんの手術や薬物療法(抗がん剤・ホルモン療法)を受けたあと、「痛み」「しびれ」「こわばり」「だるさ」に悩む方は少なくありません。
こうした症状は外から見てわかりにくく、感じているつらさが医療者に伝わりにくいこともあります※1,2。
今回は、乳がん患者さんのリハビリテーションに日頃から携わっている、乳腺ケア泉州クリニック・理学療法士の萬福允博先生に解説していただきました。乳がん治療後にみられる症状について、考えられる要因とセルフケアのポイントをまとめます。
痛み・しびれは「あなただけ」ではありません
乳がんの手術や抗がん剤治療のあとの痛みやしびれは、約2人に1人(40〜50%)にみられると報告されており、決して珍しい症状ではありません※3,4,5。
症状は自然に軽くなる方もいれば、長引く方もいます。「自分だけがつらいのでは」と抱え込まず、気になる症状があれば、まず主治医や医療スタッフに伝えましょう。
症状別に見る、考えられる要因とセルフケアのポイント
ここからは、乳がん治療後によくみられる3つの症状について、それぞれ考えられる要因とセルフケアのポイントを見ていきます。
- 手術後の痛み・しびれ・つっぱり感
- 抗がん剤による手足のしびれ(末梢神経障害)
- 抗がん剤・ホルモン療法による関節痛・こわばり
1. 手術後の痛み・しびれ・つっぱり感
手術後の痛み・しびれ・つっぱり感はなぜ起こる?
入院中よりも、退院後に痛みやつっぱり感、肩の動かしにくさを強く感じることがあります。退院後は日常生活で腕を使う機会が増えることに加え、次の2つの影響が考えられます。
- 術後早期に手術部位に体液がたまる「漿液貯留(しょうえきちょりゅう)」
- 脇から腕にかけてひも状のつっぱりが生じる「腋窩ウェブ症候群(Axillary Web Syndrome:AWS)」
AWSは術後1か月頃に生じることが多く、痛みや肩の動かしにくさに関係することがあります。放射線治療を受けた場合も、治療後に痛みやつっぱり感を強く感じることがあります。
肩の動きに左右差がないか、どう確認する?
両腕をゆっくり上げて、どこまで上がるか左右差を確認してみましょう。
術後3か月頃には、肩の動きが手術前に近い状態まで回復する方が多いとされています。この時期になっても左右差が大きく残る場合は、肩や胸まわりの硬さが関係していることがあります。

[図1:肩の可動域セルフチェックのイラスト]
肩関節周囲炎(四十肩・五十肩)が疑われるのはどんな時?
胸や脇のつっぱり感ではなく、次のような症状がある場合は、肩関節周囲炎(いわゆる四十肩・五十肩)など、肩関節自体の問題が関係していることがあります。
- 肩そのものが痛む
- 夜間に痛む
- 手を後ろに回す動作で強く痛む
乳がん治療後は、約10%の方に肩関節周囲炎がみられるとの報告もあります。症状が続く場合は、主治医や整形外科に相談してください。

[図2:肩関節周囲炎のイメージ図]
どんなストレッチをすればいい?
ストレッチは、少し伸びている感じや軽い痛みを感じる程度を目安に、ゆっくり行いましょう。軽い痛みがあってもすぐにやめず、強さや動かす範囲を調整しながら続けることが大切です。
ただし、次のような場合は無理をせず休みましょう。
- 強い痛みが出る場合
- 続けるほど痛みが強くなる場合
また、肘は曲げず、肩をすくめないよう、正しいフォームで行うことも大切です。

[図3:ストレッチの正しいフォーム]
手術後1か月以内の方、乳房再建を受けた方は、運動を始める時期や範囲が治療内容によって異なります。始める前に、主治医や理学療法士・作業療法士、看護師などの医療スタッフに確認しましょう。
痛みやしびれが1年以上続くのはなぜ?
次のような方は、痛みが長引きやすいことが報告されています※3。
- 若い方
- 腋窩リンパ節郭清を受けた方
- 放射線治療を受けた方
- 術後早期の痛みが強い方
一方、痛みが長く続く場合、手術した部分だけでなく、活動量の低下や睡眠の問題、不安なども、痛みの強さや生活への影響と関係することがあります※6。
これは「気のせい」という意味ではありません。痛みを感じる神経の働きには、体調や生活の状態など、さまざまな要因が関係しているということです。
症状が長引いている場合は、ストレッチに加えて、次のようなことも大切です※7。
- 無理のない範囲で全身を動かす
- 睡眠や生活リズムを整える
- 不安やストレスを抱え込まない
こうした点も含めて、主治医や理学療法士・作業療法士、看護師などに相談してみましょう。
すぐに主治医に相談すべきサインは?
次のような症状がみられる場合は、リンパ浮腫や感染症など、別の原因が関係していることがあります。主治医や医療スタッフに相談してください。
- 急に強くなる痛み
- これまでになかった痛み
- 腕の腫れ
- 赤み・熱感
- 発熱
2. 抗がん剤による手足のしびれ(末梢神経障害)
抗がん剤で手足がしびれるのはなぜ?(末梢神経障害とは)
パクリタキセルやドセタキセルなどの抗がん剤では、手足の指先を中心に、しびれ、感覚の鈍さ、ピリピリする痛みが生じることがあります。これは「化学療法誘発性末梢神経障害(Chemotherapy-Induced Peripheral Neuropathy:CIPN)」と呼ばれる、抗がん剤による神経の副作用です。
症状は治療終了後に徐々に軽くなることが多く、特に治療終了後6か月頃までに改善がみられることがあります。一方で、1年以上続く方もいます。治療終了後しばらくしてから、一時的に症状が強くなることもあります※8,9。
CIPNのしびれ、どう見分ける?
次のような変化がないか確認してみましょう。
- 両手・両足の指先に、左右対称のしびれや感覚の鈍さがある
- ボタンを留めにくい、物を落としやすい
- 立ち上がるときにふらつく、まっすぐ歩きにくい
- 階段で手すりが必要になった、最近つまずくことが増えた
CIPNがある方は、バランスが低下し、転倒リスクが高くなることが報告されています※10。
CIPN以外の原因が疑われるのはどんな時?
片側だけ、特定の指だけにしびれがある場合は、手根管症候群や首・腰からくる神経症状など、CIPN以外の原因が関係していることもあります。

[図4:しびれの分布パターン(左右対称/片側)の見分け方]
ふらつきが強い、転倒した、歩きにくさが増えている場合は、主治医や理学療法士・作業療法士などに相談してください。
しびれがあっても運動していい?どのくらいすればいい?
しびれがあっても、体調に合わせて無理なく体を動かすことが大切です。
- 有酸素運動:ウォーキングや自転車を1回20〜30分程度、週3〜5回
- 筋力トレーニング:椅子からの立ち上がりやかかと上げなどを週2〜3回程度
- バランス練習:片脚立ちや重心移動などを安全な範囲で
最初から長時間行う必要はなく、10分程度から始めても構いません※11。筋力トレーニングやバランス練習は、CIPNの予防や症状の軽減に役立つ可能性があり、化学療法中から取り入れることも検討されています※12。
運動が苦手な方は、まず普段の歩数を確認しましょう。体調に問題がなければ、1週間ごとに10%程度ずつ増やすなど、少しずつ活動量を増やしてみましょう※13。
ふらつく、つまずきやすい、足に力が入りにくい場合は転倒に注意し、主治医や理学療法士と相談しながら安全に運動を行いましょう。しびれが強い場合はやけどや傷に気づきにくいため、お湯の熱さや手足の傷にも注意してください。
CIPNによる、しびれが長引きやすいのはどんな人?
CIPNは、抗がん剤の種類や投与量に加えて、次のような要因が症状の起こりやすさや長期化と関係することが報告されています※8。
- 年齢
- 肥満
- 糖尿病
- 治療前からのしびれ
ただし、これらの要因があるからといって、必ず症状が長引くわけではありません。
全身の健康管理として、無理のない運動を続けることは、全身の健康や身体機能を保つうえで大切です。歩きにくさやふらつきがある場合は、主治医や理学療法士・作業療法士などに相談し、安全な運動や転倒予防について確認しましょう。
3. 抗がん剤・ホルモン療法による関節痛・こわばり
抗がん剤やホルモン療法で関節が痛む・こわばるのはなぜ?
パクリタキセルやドセタキセルなどの抗がん剤では、治療後2〜3日頃から関節や筋肉の痛みが出ることがありますが、多くは1週間以内に軽減します※14。一方で、治療を重ねるうちに痛みが気になったり、一部では治療終了後も症状が続いたりすることがあります。
また、アナストロゾール、レトロゾール、エキセメスタンなどのアロマターゼ阻害薬では、手指、手首、膝、足首などの関節痛やこわばりが生じることがあります。こうした症状は「アロマターゼ阻害薬誘発性筋骨格症状(Aromatase Inhibitor-Induced Musculoskeletal Symptoms:AIMSS)」と呼ばれ、約半数の方にみられると報告されています※15。
症状は左右対称に出ることが多く、朝起きたときや長く座った後などにこわばりを感じることがあります。多くは治療開始後早い時期に現れ、発症までの期間は平均約6週間、症状が出た方の75%は8週間以内に発症しています。
AIMSSかどうか、どう確認する?
アロマターゼ阻害薬を始めてから、次のような変化がないか確認してみましょう。
- 左右の手指や膝がこわばる
- 朝起きたときに動かしにくい
- 握った手を開きにくい
- 動き始めは痛むが、動いているうちに少し楽になる
手指では、指を曲げ伸ばししたときに引っかかる「ばね指」のような症状がみられることもあります。
AIMSS以外の関節疾患が疑われるのはどんな時?
一つの関節だけが強く腫れる、赤くなる、熱をもつ、急に強い痛みが出る場合は、AIMSS以外の関節疾患などが関係していることもあります。症状が続く場合は、主治医や整形外科などに相談してください。
関節痛・こわばりにはどう対処すればいい?
関節痛やこわばりがあっても、安静にしすぎず、無理のない範囲で体を動かすことが大切です。
- ウォーキングや自転車などの有酸素運動
- 椅子からの立ち上がりなどの筋力トレーニング
- こわばりを感じる関節をゆっくり動かす、軽くストレッチする

[図5:関節のストレッチ例]
まずは、座っている時間を減らす、10〜20分程度のウォーキングから始めるなど、続けやすい方法から始めてみましょう。ストレッチは、気持ちよく伸びる程度を目安に、ゆっくり行います。
運動によってAIMSSの痛みやこわばりが軽くなる可能性がありますが、研究によって結果にはばらつきがあります※16。同じ姿勢を長く続けたり、関節に負担のかかる動きを繰り返したりせず、こまめに休憩をとることも大切です※16,17。

[図6:休憩をとりながら過ごすポイント]
運動だけでなく、症状について理解すること、自分に合った目標を決めること、生活の中で活動量や休憩のとり方を調整することを組み合わせた支援によって、痛みや日常生活への影響が改善する可能性も報告されています※17。
まとめ:少しでも自分らしい生活を
痛みやしびれを完全になくすことは難しい場合もあります。それでも、セルフケアや専門家のサポートによって、日常生活への支障を減らせる可能性はあります。
症状を我慢し続けず、困っていることがあれば、主治医・看護師・理学療法士などに相談しながら、自分に合った対処方法を見つけていきましょう。
■医療監修

萬福允博 理学療法士
医療法人乳腺ケア泉州クリニック(大阪府)リハビリテーション科 科長、臨床研究センター センター長、理学療法士、博士。大学病院勤務を経て、現在は乳がん患者のリハビリテーションを中心に、手術後の痛みやしびれ、抗がん剤・ホルモン療法に伴う症状について臨床・研究に従事。国内外で、痛み科学およびがん医療領域に関する研究論文を発表している
出典
※1. Jagsi R, et al. Identifying Patients Whose Symptoms Are Underrecognized During Treatment With Breast Radiotherapy. JAMA Oncol. 2022;8:887-894.
※2. Di Maio M, et al. Congruence of patient-and clinician-reported toxicity in women receiving chemotherapy for early breast cancer. Cancer. 2020;126:2249-2256.
※3. Wang L, et al. Prevalence and intensity of persistent post-surgical pain following breast cancer surgery: a systematic review and meta-analysis of observational studies. Br J Anaesth. 2020;125:346-357.
※4. D’Souza RS, et al. Global estimates of prevalence of chronic painful neuropathy and moderate-to-severe neuropathy among patients with chemotherapy-induced peripheral neuropathy: a systematic review and meta-analysis of data from 29 countries between 2000 and 2024. Reg Anesth Pain Med. 2025.
※5. Shen A, et al. Risk factors of unilateral breast cancer-related lymphedema: an updated systematic review and meta-analysis of 84 cohort studies. Support Care Cancer. 2022;31:18.
※6. Manfuku M, et al. Predictors of persistent post-surgical pain intensity and interference at 1 year after breast cancer surgery: assessing central sensitization, central sensitivity symptoms, and psychological factors. Breast Cancer. 2023;30:271-281.
※7. Manfuku M, et al. Effect of perioperative pain neuroscience education in patients with post-mastectomy persistent pain: a retrospective, propensity score-matched study. Support Care Cancer. 2021;29:5351-5359.
※8. Rivera DR, et al. Chemotherapy-Associated Peripheral Neuropathy in Patients With Early-Stage Breast Cancer: A Systematic Review. J Natl Cancer Inst. 2018;110(2):djx140.
※9. Kruse FL, et al. Coasting related to taxane-induced peripheral neuropathy in patients with breast cancer: a systematic review. Acta Oncol. 2025;64:78-86.
※10. Mizrahi D, et al. Neurological Outcomes of Chemotherapy-Induced Peripheral Neuropathy in Patients With Cancer: A Systematic Review and Meta-Analysis. Cancer Nurs. 2023.
※11. Campbell KL, et al. Exercise Guidelines for Cancer Survivors: Consensus Statement from International Multidisciplinary Roundtable. Med Sci Sports Exerc. 2019;51(11):2375-2390.
※12. Jordan B, et al. Systemic anticancer therapy-induced peripheral and central neurotoxicity: ESMO-EONS-EANO Clinical Practice Guidelines for diagnosis, prevention, treatment and follow-up. Ann Oncol. 2020;31(10):1306-1319.
※13. Kleckner IR, et al. Effects of exercise during chemotherapy on chemotherapy-induced peripheral neuropathy: a multicenter, randomized controlled trial. Support Care Cancer. 2018;26(4):1019-1028.
※14. Fernandes R, et al. Taxane acute pain syndrome (TAPS) in patients receiving chemotherapy for breast or prostate cancer: a prospective multi-center study. Support Care Cancer. 2018;26(9):3073-3081.
※15. Beckwée D, et al. Prevalence of aromatase inhibitor-induced arthralgia in breast cancer: a systematic review and meta-analysis. Support Care Cancer. 2017;25:1673-1686.
※16. Roberts KE, et al. Exercise therapies for preventing or treating aromatase inhibitor-induced musculoskeletal symptoms in early breast cancer. Cochrane Database Syst Rev. 2020;1:CD012988.
※17. Manfuku M, et al. Complex intervention including pain science education and patient-led goal setting-based self-management strategies for management of aromatase inhibitor-induced musculoskeletal symptoms: a single-arm feasibility and pilot study. J Cancer Surviv. 2026;20(4):1351-1366.
※本記事は乳がん治療後の痛み・しびれに関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の医療機関への受診を推奨・勧誘するものではありません。症状の経過には個人差があり、本記事で紹介する内容が同様の効果を保証するものではありません。気になる症状がある場合は、本記事の内容にかかわらず、まずご自身の主治医や医療スタッフにご相談ください。