がんに罹患すると、がん自体の直接的な痛みのほか、手術や薬の副作用による間接的な痛み、倦怠感・だるさなど、さまざまな身体的負担が生じます。
また身体的負担だけではなく、仕事復帰や治療費、交通費、アピアランス費などにかかる経済的な負担、将来への不安など、精神的にも大きなストレスがかかるといわれています。
このような身体的・精神的な負担を和らげ、生活への影響を抑えるために行うのが「緩和ケア」です。一般的には終末期に行うイメージがあるかもしれませんが、実は緩和ケアはがんと診断されたときから始めることが大切といわれています。
厚生労働省も「緩和ケアについては、患者の状況に応じて、身体的症状の緩和や精神心理的な問題などへの援助が、終末期だけでなく、がんと診断されたときからがん治療と同時に行われる必要がある」と示しています。
出典:厚生労働省:「緩和ケア」
そこで今回は、緩和ケアの内容や受けられる場所、費用、関わる専門家などについて詳しく解説します。
緩和ケアとは
国内のみならず、WHO(世界保健機関)でも、緩和ケアは次のように定義されています。
「緩和ケアとは、生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者とその家族のQOL(生活の質)を、痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に見出し的確に評価を行い対応することで、苦痛を予防し和らげることを通して向上させるアプローチである」
がんは、診断されたときから命を脅かされる恐怖、治療に対する不安、人生に対する問いかけなど、精神面に大きな変化が起こります。また、がんの進行状況、発症部位によっては痛みや倦怠感、咳、胃腸の不調など、さまざまな症状が現れます。
これらの精神的、身体的な症状もコントロールすることで、自分らしい生活を維持しやすくできるよう、早期から専門チームと連携しながら行うことが大切です。
緩和ケアを受けられる場所
緩和ケアを受けられる場所は、がん診療連携拠点病院と緩和ケア病棟がある施設です。
がん診療連携拠点病院には緩和ケアの専門チームがあります。
緩和ケアを受けられる場所と費用の目安について詳しくみていきましょう。
がん診療連携拠点病院
がん診療連携拠点病院の一般病棟では、治療と緩和ケアチームによるケアを併行して受けられます。厚生労働省認可の緩和ケアチームによるケアと主治医による治療を同時に行う場合、緩和ケア診療加算が発生し、1日390点(1点=10円として3,900円)が加算されます。これには健康保険が適用されるため、3割負担で1日1,170円、1割負担で1日390円です。
また、緩和ケアを受けるかどうかに関係なく、食事療養費1食あたり460円と、室料差額(病院によって異なる)がかかります。
緩和ケア病棟
厚生労働省から承認を受けた緩和ケア病棟に入院する場合にかかる費用は定額制です。30日以内の入院では、1日5,107点(51,070円)または4,870点(48,700円)で、保険が適用されます。 1割負担で約5,000円/日、3割負担で約15,000円/日です。
その他、1食460円の食事療養費や室料差額(病院によって異なる)などがかかります。
自宅
自宅で療養しながら病院やクリニックに通院したり、訪問診療や訪問介護を受けたりする方法があります。訪問診療・訪問看護を希望する場合は、主治医やソーシャルワーカー、がん相談支援センターなどに相談しましょう。
訪問診療や訪問看護には保険が適用されますが、交通費や衛生材料費などの保険適用外の費用がかかることがあります。
費用は回数や内容などで異なるため、訪問診療・訪問看護を利用する際に確認しましょう。
緩和ケアに関わる専門家
がんの緩和ケアには、医師や看護師、薬剤師のほかにも、ソーシャルワーカーや理学療法士など、さまざまな専門家が関わります。それぞれの役割について、みていきましょう。
医師
がんに伴うさまざまな症状を抑えるための治療を行います。
痛みや倦怠感、食欲不振、精神症状などを確認し、必要と考えられる治療を受けることができます。治療法は薬物療法や精神療法が主です。
薬剤師
抗がん剤の副作用の緩和、がんに伴う痛みのコントロールなどができる薬の提案・説明を行います。
院内外の薬剤師に対し、緩和ケアの専門家として指導を行う役割もあります。
看護師
緩和ケアに関する専門知識や技術を持つ看護師が、治療中や入院中に患者をサポートします。
生活の質向上の観点から、苦痛をはじめとしたさまざまな症状を評価し、患者の状態に合わせてケアを提供することが主な役割です。
管理栄養士
がん治療に伴う食欲の低下や口内炎などが起きた際に、食事のアドバイスをします。
口から食べることで食事の喜びや療養生活の充実につながります。
理学療法士・作業療法士・言語聴覚士
がん治療の副作用やがんに伴う痛みなどにより、これまで通りに身体を動かすことができなくなった際にリハビリを行います。
臨床心理士・公認心理師
がんへの罹患、治療の負担などによる心の問題を専門的にサポートします。
患者と家族の心の状態を評価し、支援の計画を立てます。
ソーシャルワーカー
患者とその家族の生活を支えるために、在宅療養のための転院先探し、訪問看護ステーションおよびケアマネジャーなど社会資源との連携を行います。
また、患者とその家族の治療や療養生活に関する価値観を踏まえ、ケアの計画や目標に反映します。
ケアマネージャー
介護保険で認定された給付費の範囲で、在宅でのケアプランを組み立てる専門家です。
また、介護サービス提供事業者と連携し、サービスを円滑に受けられるようにサポートします。
費用面の負担を抑える選択肢の1つとして、民間保険の知識も大切
がんに罹患すると、治療費や家計に対する不安が生じ、それによって精神状態が悪くなることがあります。公的制度があるものの、それだけでまかなうのが難しいケースもしばしば。
そのような費用面を支えるのが民間保険です。
一般的に、がんの治療中に新しく加入できる保険はごく限られていますが、治療終了後しばらくしてから加入できる「引受基準緩和型」の保険はさまざまな商品があります。
なお、「緩和」との言葉が使われていますが、これは緩和ケアやそれに関することを指すのではなく、加入条件(≒引受基準)が緩和された保険。つまり、持病があっても条件を満たせば加入できる保険という意味です。
引受基準緩和型の保険よりも早く、がんの治療中でも新しく加入できる保険の一例をご紹介しますので、参考にしてみてください。
新緩和型保険 がんと向き合うための入院保障(正式名称:がん経験者向け入院保障保険)
まとめ
緩和ケアはがんと診断されたときから始めるものだと覚えておくのが大切です。生活の質が低下すると、人生に対して前向きな気持ちを持つのが難しくなる場合があります。
すでにがんの診断を受けている方やそのご家族は、心身がつらくなってしまったときには抱え込まずに、医師や看護師、薬剤師、理学療法士、ソーシャルワーカーなどによる緩和ケアチームのサポートを受けて、生活の質向上を目指しましょう。
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■医療監修
西 智弘 医師
2005年北海道大学卒。
室蘭日鋼記念病院で家庭医療を中心に初期研修後、川崎市立井田病院で総合内科/緩和ケアを研修。
その後2009年から栃木県立がんセンターにて腫瘍内科を研修し、2012年から川崎市立井田病院にて腫瘍内科・緩和ケアに従事。
また2017年に一般社団法人プラスケアを立ち上げ、暮らしの保健室や社会的処方研究所の運営に携わっている。
日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医。