抗がん剤選びが変わる?オンコタイプDXで実現する、患者に優しい乳がん治療とコストダウン|小泉圭先生〜第33回日本乳癌学会学術総会より〜

2025.08.01

2023年9月から、「オンコタイプDX乳がん再発スコア検査」が日本でも保険適用となりました。この検査は、がん細胞の特性を遺伝子検査で解析することで、ホルモン療法に加えて、抗がん剤治療を行った方がいいのかどうかについての情報を得ることができます。

この検査により、抗がん剤が必要な患者さんと不必要な患者さんを見極めることで、がん患者さんの心身の負担軽減はもちろん、医療費全体としての削減効果も期待されています。  

今回は、2025年7月10日から12日までの3日間、東京都で開催された第33回日本乳癌学会学術総会のシンポジウム「乳癌治療における経済毒性について考える」のうち、浜松医科大学医学部附属病院乳腺外科の小泉圭先生のセッション『HR+(ホルモン受容体陽性)、 HER2-( HER2陰性)、 N0乳癌(腋窩リンパ節転移陰性)の術後治療方針決定におけるオンコタイプDX乳がん再発スコア検査の費用対効果分析』の内容をご紹介します。 

なぜ「オンコタイプDX」が注目されるのか?

乳がん治療では、手術後に抗がん剤治療を追加するかどうかが大きな課題です。抗がん剤は副作用を伴うため、本当に必要な患者さんだけに実施したいものです。これまで、医師は患者さんの年齢、リンパ節への転移の有無やグレード(がんの顔つき)などに基づいて治療方針を決めていました。しかし、これだけでは抗がん剤の効果がどれくらいあるかを正確に予測するのは難しいという課題がありました。 

そこで登場したのがオンコタイプDXです。この遺伝子検査は、がん組織の遺伝子を調べることで、乳がんの再発リスクや抗がん剤の効果を予測することができます。これにより、医師はより科学的な根拠に基づいて、一人ひとりの患者さんと最適な治療選択について話し合えるようになります。すでに欧米では、この検査が医療費を抑えながら良い治療を提供できることが示されています。

費用対効果分析から分かったこと

今回の研究では、ホルモン受容体陽性、HER2陰性、腋窩リンパ節転移陰性の早期乳がん患者さんを対象に、次の2つのケースで医療費と「生活の質(QOL)」がどう変わるかをシミュレーションしました。 

  1. 従来の診断方法(臨床病理学的因子のみ)で治療を決める場合 
  1. オンコタイプDX検査を使って治療を決める場合 

結果として、オンコタイプDXを使った方が、患者さん一人あたりの平均医療費が約64万円も安くなることが分かりました。これは、オンコタイプDXの検査費用(約49万円)を含めても、全体の医療費が安くなることを意味します。 

さらに、患者さんの「生活の質」も向上することが示されました。生活の質は、「クオリー(QALY)」という指標で評価され、健康な期間がどれだけ長く維持できたかを示します。オンコタイプDXを使った方が、クオリーの数値が高くなる、つまり健康な期間が長くなることが分かりました。 

なぜ医療費が安くなり、生活の質が上がるのか?

最大の理由は、オンコタイプDXを使うことで、本当に抗がん剤が必要な患者さんを見つけだすことができるためです。これにより、不必要な抗がん剤治療を避けることができ、その結果、抗がん剤治療に伴う医療費や副作用の治療費が削減されます。 

さらに重要なのは、オンコタイプDXによって再発のリスクが高く、抗がん剤の効果が見込める患者さんを見つけ出し、その患者さんにはしっかり抗がん剤治療を行うことで、将来的な再発を減らせる点です。 

乳がんが再発すると、その後の治療には多くの医療費がかかります。オンコタイプDXは、この再発治療費を大きく減らす効果があることが分かりました。今回の解析では、この点が、医療費削減に最も寄与していたことがわかりました。 

まとめ 

医療従事者と患者さんの双方が長く待ち望んだオンコタイプDXの保険適用は、その有用性が医療費の観点からも示されたことで、さらに大きな意義を持つことになりました。 

このように、がん治療は日進月歩で進化を続けています。With Mi編集部では、今後も医療従事者の間で共有されている最先端の情報を、患者さんの視点に立って分かりやすくお届けしていきます。 

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