乳がん手術後も大好きな大浴場へ! 全国に広がる「乙女温泉」活動

2024.09.10

2024年7月、東京・自由が丘にある銭湯・みどり湯にて、「乙女温泉」が開催されました。

乙女温泉は、乳がん手術をした後も手術あとや乳房切除の状態を気にすることなく、温泉や銭湯などの大浴場で楽しみたいという声から始まった取り組みで、10~30名程度で1時間ほどの貸切入浴と交流会が行われます。主催しているのは、自身も乳がんで左乳房を全摘されている渡辺 愛さん(写真右)が代表を務める乳がん経験者のコミュニティ「Reborn.R(リボンアール)」。2020年10月に兵庫県で始まって以来、SNSや口コミで広がり、愛知・東京・北海道など11都道府県で開催されるようになりました。

この記事では、自由が丘のみどり湯で行われた乙女温泉の様子をレポートするほか、運営を行うReborn.Rの渡辺さんや協力されている方々にお話を伺います。

銭湯貸切で人目を気にせず広いお風呂を楽しめる! 「乙女温泉」レポート

この日の会場は、自由が丘の住宅街にある銭湯「みどり湯」。創業は1957年と歴史がありますが、ナチュラルモダンにリニューアルされており、地元で人気の銭湯です。その営業時間前である午前中に「乙女温泉」が開催されました。

参加費は、入浴・レンタルタオル・ドリンク(協賛社より提供のコールドプレスジュース)込みで1500円(税込)。事前予約が必要で、今回も募集開始から24時間で10名の定員に達したそうで、キャンセル待ちでの参加者も多く見られました。

入浴時間は11~12時で、受付を済ませた方から順次お風呂に向かいます。「乙女温泉」では女湯・男湯の両方を女性に開放しており、女湯は乳がん経験者で手術あとや脱毛などが気になる方、男湯は乳がん経験者ではないけれど症状に理解がある方や、そういう方と一緒になっても大丈夫という乳がん経験者向け。誰もが気兼ねなくゆっくりと大きなお風呂を楽しめるように考えられています。

「みどり湯」での開催は、2023年5月に次いで2回目ですが、ほとんどの参加者は乙女温泉が初体験でした。それもあって多くの方がお一人で来場され、受付では緊張した様子も見受けられましたが、お風呂に入ると誰からともなく会話が始まるようで、やがてにぎやかな笑い声が聞かれるように。出てくる頃には皆さん打ち解けられた雰囲気だったのが印象的でした。

そうして入浴後には、休憩スペースで参加者が輪になっての自己紹介タイム。お名前とどこから来たか、参加した感想などを1人ずつ話していきます。病歴は触れなくてもよいのですが、ほとんどの方がお話されていました。

参加者は、乳がん手術をして1年未満の方も多い一方で、5年10年経っている方もいたり、乳房の切除、温存、再建などの状況もさまざま。『おっぱい2つとってみた がんと生きる、働く、伝える』(阿久津友紀著)で乙女温泉を知って探し、申し込んだという人や、もともと銭湯好きだが乳がん手術後に他の利用者から心ない言葉をかけられてしまい、今日はそれ以来の銭湯だという人もいて、皆さん、ウンウンとうなづきながら互いの話に聞き入っていました。

その後は会場を移してランチを一緒にしました。休日のお昼時で混んでおり、しばらく待ちましたが、その間も皆さん話が尽きない様子。食事中は大きなテーブルに全員がつき、あちらこちらで話が盛り上がっていました。通っている病院や治療内容の話、普段の食事や生活から家族、仕事の話など、同じ乳がん経験者だからこそ、どの参加者も聞きたい、知りたい、話したいことが盛りだくさんだったようです。

参加者の方にお話を伺うと、「病院の患者会やセミナーなどよりも明るい雰囲気で楽しい」「住まいや仕事などが違っていても、乳がんという共通の経験があるだけで仲良くなれる」「前日はとても緊張したが、お風呂では自然と会話ができて、来て良かったと思った」とのこと。また、23区外や千葉、神奈川からの参加者が多く、「あまり自宅に近すぎると、知り合いにばったり会うのも怖い」「今回楽しかったので、いつか温泉地で泊まりの乙女温泉にも行ってみたい」という声もありました。

乙女温泉開催は2回目の、みどり湯のオーナー 清水智子さん

Q. どのようなきっかけで乙女温泉をやることになったのですか?

東京都浴場組合の新聞で「乙女温泉」の取り組みを知り、問い合わせました。みどり湯は私が女性オーナーということもあって、ぜひ何か協力したいとすぐ行動できました。とはいえ、ちょうど内装のリニューアル工事を控えていたので、少し間が空きましたが、渡辺さんと相談して時期を決め、初めて開催したのが2023年5月のことです。みどり湯は13時から営業で、乙女温泉は午前中なので通常の営業にも影響はありません。

Q. ご自身は乳がんについて、どのような思いをお持ちですか?

自分や周りに乳がん経験者がいるわけではないのですが、女性にとっては誰にでも可能性があることなので他人事には思えず、乙女温泉のコンセプトに共感しました。

また、皆さんが自己紹介されるのも聞かせてもらい、同じ乳がんでも感じ方や乗り越え方は人それぞれなのだと分かりました。同じ女性として参考になるし、勇気をもらえますね。

Q. みどり湯では、胸部をカバーする入浴着も販売されているそうですね。

渡辺さんと出会ってから、入浴用品と一緒に置くようになりました。いつの間にか売れて再発注するというのが続いており、年に10枚以上は出ますね。やはり必要としている方、欲しいなと思われている方というのはいて、その方たちに届いているのだと思います。

また、「入浴着にご理解をお願いします」という張り紙もするようになりました。お客さまが水着と混同される場合があるので、男性スタッフも含めて周知し、何かあればご説明できるようにしています。こうしたことからも、乳がんへの理解が進めばよいですね。

「乙女温泉」運営側の思い Reborn.R代表 渡辺愛さんとサポーターの川上直美さん

Q. 乙女温泉を企画したきっかけを教えてください。

渡辺:私自身が2018年に46歳で乳がんになり、左乳房を全摘しました。普通の主婦だったのですが、毎年9万人もが新たに乳がんに罹患していると知り、この先の生き方を乳がん経験者の先輩に聞きたいと思い、Reborn.Rを作って経験談の聞き取りを始めました。そこで、術後の傷あとなどで人目が気になり、公衆浴場に行きづらいという声を多数聞き、知り合いの温泉の女将に相談したところ、「うちの温泉を貸切にして使えば?」と言っていただいたのが乙女温泉のきっかけです。

Q. 全国に広がりを見せてきていますが、どのようにして広まったのですか?

渡辺:Reborn.RのブログやSNSで開催の報告をしているうちに、いろいろな人にこの取り組みを知ってもらえました。そうして銭湯や温泉の方から声をかけていただいたり、乳がん経験者の方から手伝いたいといってもらったりして今に至ります。今回、受付を手伝ってくれた川上さんもそんな1人で、実は影響力ある乳がんブロガーさんなんですよ。

Q. 参加するだけじゃなく、手伝いたいと思ったのはなぜですか?

川上:最初は西日暮里の乙女温泉に参加して、みどり湯の初回にも来ていました。もともと私自身、温泉旅館でオフ会を開いたりしていて、渡辺さんの取り組みを知ったときに、ぜひ一緒にやりたいと思い、すぐ行動に移しました。

乳がんになると、感じ方は人それぞれだと思いますが、私は落ち込むとか辛いとかよりも、「これがあの有名な病気か!」みたいな感じで受け止められたんです。公衆浴場での入浴も、私は周りの目がさほど気になりませんが、気になる方でも入れるといいのにと思いました。だから乙女温泉を広めたくて、いま地元のおしゃれな銭湯にお勧めしているところです。「ここでできたら、みんな気分上がるぞ!」と思って頑張っていますので、楽しみにしてほしいですね。

渡辺:川上さんのように、各地で乙女温泉をやりたい、広めたいという方がたくさんいてくれて、支えられて続けてこられました。だから、私のほうで運営ノウハウをお伝えして、それぞれでやっていただいたりもしています。

Q. 乙女温泉を開催するときに、こだわっていることはありますか?

3つのお約束というのを決めています。まず、乳がん経験者がスタッフに1人はいること。経験者なら分かるような繊細な気持ちや違和感を分かる人がいてこそ、参加者が安心できるのだと思うのです。2つ目が、必ず男湯・女湯を両方使って、乳がん経験者としか一緒に入れない方と、混ざっても大丈夫という方を分けることです。心理的安全性を守りながら、ちょっと勇気を出そうと思えたら練習できる場もあることが大事です。

3つ目が、交流会を必ず合わせて行うこと。乳がん経験者同士も話が尽きないものですし、乳がんではない方がどんな風に思われるのか、空気感も含めて共有したいのです。たとえば、今まで参加された乳がん以外の方の例では、当事者の姉妹、看護師やマンモグラフィ技師などの医療従事者の方などがいました。

この3つを守っていただければ「乙女温泉」の名でイベントを開催してもらいたいので、共感いただける方がいればご連絡いただきたいですね。ただ、ちょっと違うかなと思うのは、たとえば集客のための企画だったり、ネットワークビジネスみたいなものだと、目的が異なるのでうまく行かないような気がします。

Q. 乙女温泉で目指すものは何なのでしょうか?

「乙女温泉」をやっていくことで、乳がんへの意識が変わると思うんです。大浴場に入りにくいと思っている人がいるということを、世の中に広く知ってもらいたい。それは、乳がんになる前の自分も知らなかったことでした。そうして緩やかにでも、世の中が少しずつ変わっていけばいいというのが思いです。ですから当時者の方にも、自分が乳がんになって気づいたこと、変えていけたらいいと思うことがあれば、ぜひRebornRに相談してほしいですね。一緒に変えていけたらと思います。

そしてReborn.Rでいつの日か実現したいのが、乳がんでお母さんを亡くした子どものためのハウス作りです。乳がんで入院や亡くなられるお母さん自身も安心できると思うんです。また、そうしたハウスがあれば、乳がん治療後に仕事をしたい、何か役に立ちたいと思う方のやりがいを感じられる場になるでしょう。道のりは遠いですが、共感いただける方たちとぜひ実現したいですね。

「乙女温泉」ののれんは、2回目に開催した大阪の銭湯のご主人が作ってくれたもの。「これから日本全国に連れていってね」といって渡されたそう。これをデザインしてくれたのも、乳がん経験者の女性だとか。

刺繍入りのオリジナルタオルは、サウナ愛好者にも人気の「MOKU」。絞りやすく乾きやすいのが特徴で、首にかけると胸の辺りがちょうど隠れるのが気に入って、渡辺さんがコラボをリクエストしたところ快諾いただけ、100枚限定で販売中。

<次回開催の予定>
10/21北海道札幌市
11/2  愛媛県八幡浜市
11/9  兵庫県神戸市

※すでに定員になっている場合もございます。あらかじめご了承ください。
詳細や今後の開催情報はinstagramにてお伝えしています。

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