写真集モデル募集がくれた勇気。乳房再建を選んだ私の体験

2025.06.14

シリーズ 乳房再建とは? VOL2

「乳房再建」という言葉を知っている人は増えてきましたが、具体的にどんな治療をするのか知らないという人が圧倒的です。そこで、乳房再建を実際に行った体験者の方や乳房再建を行なう医師など、さまざまな立場の方を取材して、乳房再建の正しい情報をお伝えしていきます。今回はその2回目です。 

取材・執筆/増田美加(女性医療ジャーナリスト)

インタビュー・「手術日が近づくにつれてネガティブに。そんな私の気持ちを切り替えてくれたのが乳房再建写真集のモデルになることでした」 

間野ゆりさん(仮名) (36歳・専業主婦)

間野ゆりさんのプロフィール 

夫、長男15歳、次男6歳の4人家族。

2022年 低用量ピルを服用していたため、婦人科医からの勧めで乳がん検診、子宮頸がん検診を受け始める。 
2023年5月 34歳、2回目の乳がん検診にて要精密検査。乳腺外科への受診を勧められる。
6月 乳腺外科クリニックでの細胞診の結果は陰性。しかし医師から気になる影を指摘されMRI検査を勧められる。 

8月  別の総合病院の乳腺外科で行ったMRI検査でがんの疑いありと言われる。 
10月  組織診の結果、陽性。  
11月  左乳房非浸潤がん(ステージ0)を告知される。 
12月〜1月  手術方法や再建方法などを医師と相談し手術日を確定。 
2024年2月  左乳房全摘出同時再建(自家組織(お腹)/一次一期再建)手術を行なう。
以降、経過観察。 

乳がんと診断がつくまで半年もかかりつらかった 

 間野ゆりさん(仮名)が乳がん検診を受け始めたのは33歳。低用量ピルを処方されていたため、婦人科医の勧めで乳がん検診と子宮頸がん検診を定期的に行なうようになりました。 

「34歳のときの乳がん検診でした。結果が要精密検査と出て、乳腺外科を受診することになりました。それでもそのときは、しこりも、ほかの症状も何もないので、不安もありませんでした」と当時を振り返るゆりさん。 

 しかし、細胞診の結果は陰性だったものの、医師から「気になる影があるからMRI検査を受けてみませんか」と言われ、総合病院の乳腺外科でMRI検査を受けることになりました。最終的な結果が出るまで半年の時間がかかり、がんか? がんでないか? がわからない宙ぶらりんの状態が続き、ゆりさんは精神的につらかったと言います。 

「告知を受けたときも病院の待ち時間が長く、いつ呼ばれるかわからないストレスでネガティブになってしまいました。4時間半待って、“結果はがんでした”と医師に言われたときにはもう放心状態…。非浸潤がんなので大丈夫と言われましたが、そのときは知識もなく、ただただ落ち込みました。医師の話を聞いた後も、乳房摘出以外の方法はないのか? 薬でがんを散らすとかできないのか? と胸に傷がつかないことばかりを考えていました。あとで、乳がんの治療は、抗がん剤などの薬物治療より、手術でがんを摘出するほうが体に負担のない治療だということを知りましたが、そのときは、胸を傷つけたくないことばかり考えていたと思います」(ゆりさん) 

自家組織の乳房再建を決断した理由 

 ゆりさんの乳がんは、左乳房の非浸潤がん(ステージ0)。 

「主治医の診断では、乳房の部分切除術も可能とのことでしたが、私の乳がんの腫瘍径は約2センチのため、のりしろをつけて約6センチ取ることになるそうです。そうなったら胸の形が変わってしまいます。乳房全摘術をするほうが若干、再発リスクが下がること、全摘して乳房再建をしたほうが体のシルエットが自然になること、乳房全摘出ではその後の放射線治療を受けないですむことを考えて、乳房全摘をして再建をすることを選択しました」 

 乳房全摘で再建する決断をしたのには、ゆりさんの夫の願いもありました。「乳房を残すと再発率が少しだけ高まる」と医師の話に、夫は「再発するリスクはできるだけ減らしてほしい。そのうえで乳房再建もして」と話したそうです。 

 ゆりさんは、同時再建(一次一期再建)で自分のお腹の組織を移植する自家組織再建を行なうことを決断しました。同時再建(一次一期再建)→VOL1 column リンク とは、乳がんの手術のときに乳房再建も同時に行い、1回の手術で完成させる方法です。 

「そこの病院では、一般的な手術方法のようで、乳房全摘術の話の段階から一次一期再建のことを医師から説明されていました。インプラントでの再建を選ぶと、胸を膨らませるためにティッシュ・エキスパンダーを挿入して、数か月後にもう一度、本番のインプラントへの入れ替え手術をする必要があります。自家組織で再建する場合は、がんの手術と同時に行えると聞いたため、手術は1回で終わりにしたいと思い、こちらの方法を選びました。乳頭・乳輪も残せると言われていました」 

 また、年月が経ったときに、再建した胸としていない胸の左右差が目立ちにくいことも、ゆりさんはメリットに感じました。 

 手術時間や入院期間は、インプラントの乳房再建にくらべると長くなります。乳がんの手術をして、そのあと自家組織での乳房再建をするため、手術時間は5~10時間かかります。入院期間は1~3週間と、施設によって異なります。 

ネガティブだった私の背中を押した乳房再建の写真集

 長男(当時14歳)には、ゆりさんの留守中に夫が話をしてくれていました。約2週間入院するので、「男同士、頑張ろう」と言ったら、ショックだったようで涙を流したそうです。 

「長男は私の前では自然に振舞っていましたが、そのうち“いつから入院するの? どういう手術をするの?”とポロポロと聞いてくるようになりました。 

 次男(当時4歳)には、病院にお泊りするからおうちのことお願いね、と話しました。留守中は私の母が来てくれましたし、長男が抱っこしてくれたり、いろいろ手伝ってくれて助かりました」 

 しかし手術日が近づくとともに、ゆりさんは不安でいっぱいになったと言います。 

「怖くてイヤで仕方ありませんでした。手術もイヤ、全身麻酔もイヤ。手術から目覚めたときに体中が傷だらけになったら? 今はなんの自覚症状もないのに。お腹の傷が目立って、友達とお風呂に行けるのかな? とネガティブなことばかり考えていました。入院1週間前に入院の手続きをしたとき、やめてしまいたい! と夫に理不尽な言葉をぶつけてしまいました。すると“そんなこと言うな。一緒に生きていくためにも手術してほしい”と言われました」 

 手術前夜に、ゆりさんの気持ちを前向きにする出来事がありました。それが、乳房再建を経験した女性の写真集制作に向けたモデル募集でした。 

「何気なく病室でネットを検索していてその記事を見つけて、運命的なものを感じました。そうだ! これに応募しよう。手術をしないと乳房再建のモデルに応募できない。写真家の蜷川実花さんに東京のスタジオで撮影してもらえるなんて! 蜷川実花に会いたい! 明日の手術なら写真集の撮影に間に合う! このことが私のモチベーションになりました。夫と友人に相談したら、“応募だけでもいいから、すべき!”と背中を押してくれました」 

 手術は無事終了。ゆりさんは拍子抜けしてしまうくらい、痛みもつらさもなかったのを記憶しているそうです。 

「手術が終わり、病室で眠たいな~と目覚めたら、“お疲れさま”と夫が待っていてくれました。ドレーンが入った自分の胸を見たのは翌日でした。冷静には見られなかった記憶がありますが、腫れていて傷はあるけど、乳輪乳頭も残っていて、あまり変わらないという印象でした。喪失感をもたずにすんでよかったと思います。

 おなかの傷あとは、おへその下を約30~40センチ横に切った感じでしたが、痛み止めを処方されていたので、痛みはあまりなく、つらくありませんでした。医師からは“内臓を切るわけではないので帝王切開より痛くないよ”と言われました」 

 術後はテーピングを取り替えたり、おなかを切って縮めているので、体を伸ばすリハビリなどを行ないます。夫からは、「傷は思ったよりわからないよ。いいね、頑張ったじゃん」と言ってもらえました。友達と温泉にも行きましたが、特になんのつっこみもなく、「取り越し苦労だったのかも」とゆりさん。 

 次男ともお風呂に一緒に入り、「触らないように気をつけるね」と最初は子どもなりに気をつかっていましたが、1年以上たった今は、何も気にしてない様子です。 

 ゆりさんが乳がん治療と乳房再建にかかった費用は、2週間4人部屋に入院、院内着などのレンタル費用を含めて、高額療養費制度を利用して約10数万円(あくまでもゆりさんの場合。一般的な費用については下記コラムを参照)。 

「私は専業主婦なので、夫が出してくれました。費用のことが心配になり、夫にごめんなさいと言うと“命を守る値段だから気にしないで”と言ってくれました」 

若くしてがんになっても大丈夫、と伝えたい 

ゆりさんは入院中から指導してもらえたリハビリで体も回復。1年半たった今では乳がん治療前と変わらない生活を送っています。医師や看護師、そのほかの多くの医療者の方、支えてくれた家族に感謝していると話します。 

「乳がんがわかって絶望していた私でしたが、乳房再建ができる病院にスムーズに行けて、希望したとおりの手術が受けられたことは、ラッキーだったと思います。再建後しばらくはリハビリもありましたが、再建してよかったと心から思っています。30代で乳がんになるのは平均より若い年齢です。私は怖い怖いと騒ぎましたが、1年半たった今、若い人たちには、そんなに怖がらなくても大丈夫。胸も綺麗に取り戻すことが可能だよと伝えたい。大事なのは、自分で考えて自分でこうしたいと、決めることだと思います。手術後、蜷川実花さんに撮影してもらえて、乳房再建の写真集のモデルの一人に加われたことは、とても幸せ。キャンサーギフトだと思っています」 

『New Born -乳房再建の女神たち-』 
写真/蜷川実花 
企画/NPO法人エンパワリングブレストキャンサー(E-BeC) 
乳がんを経験して乳房再建をした12人の写真集。ゆりさんがモデルの一人を務めています。 
https://www.e-bec.com/ninagawa-mika-model

Column 

乳房再建手術はどのくらいの費用がかかるの? 

乳房再建の手術の費用は、インプラントを選ぶか、自家組織(ゆりさんの場合)を選ぶか、で違ってきます。現在、いずれも保険適用になっていて、高額療養費制度を利用することができます。 

参考資料/NPO法人E-BeC(エンパワリング ブレストキャンサー)ホームページより 

インプラントによる乳房再建の場合の目安 

エキスパンダーを入れて、その後時間をあけて、インプラントに入れ替える手術時間・入院期間および費用の目安です。手術時間や入院期間は施設によって異なります。 

 エキスパンダー インプラント 
手術時間 30分~1時間 30分~2時間程度 
入院期間 日帰り~1週間程度 日帰り~1週間程度 
費用 10万~20万円30万円

*エキスパンダーとインプラントによる再建の手術費用(保険適用、自己負担3割の場合)。高額療養費制度を利用すると、実質的な負担額は9〜14万円程度(保険適用外の治療を行った場合、高額療養費制度は利用できません)。 

自家組織による乳房再建の場合の目安 

自家組織を移植する乳房再建では、再建手術の前におなかや背中などから移植する組織を採取する手術を行います。そのため、インプラントと比べて手術時間と入院期間が長くなります。手術時間や入院期間は施設によって異なります。 

手術時間 5~10時間 
入院期間 1~3週間 
費用 30万~60万円 

*自家組織による再建の手術費用(保険適用、自己負担3割の場合)。また、高額療養費制度を利用すると、実質的な負担額は9~14万円程度。 

※保険適用の場合は、高額療養費制度の利用が可能です。自己負担限度額の計算方法は世帯年収や年齢によって異なります。詳しく知りたい方はこちらの資料からご確認ください。

⇒ 乳房再建手術について詳しくは 

NPO法人E-BeC(エンパワリング ブレストキャンサー)のホームページに詳しく掲載されています。 https://www.e-bec.com/about/chapter1 

取材・執筆/増田美加(女性医療ジャーナリスト)  

当事者視点に立った女性のヘルスケアや医療情報について執筆、講演を行う。 

乳がんサバイバーでもあり、がんやがん検診の啓発活動を行う。 

NPO法人「乳がん画像診断ネットワーク(BCIN)」副理事長。NPO法人「女性医療ネットワーク」理事。NPO法人「キャンサーネットジャパン(CNJ)」乳がん体験者コーディネーター。NPO法人「日本医学ジャーナリスト協会」会員。 

増田美加オフィシャルサイトhttp://office-mikamasuda.com/  

※掲載された情報は、公開当時の知見によるもので、現状と異なる場合があります。また、この記事はご本人から許可をいただき掲載しています。内容については個人の体験を元に構成したものであり、治療等の条件はすべての方に当てはまるわけではありませんし、治療方針については当社が推奨するものでもありません。ご自身の主治医とよく話し合い、最善の治療を選択してください。

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