磯部さんプロフィール
2017年、24歳で乳がんが発覚。ステージは2aでサブタイプはルミナルb。乳房切除術、抗がん剤、分子標的薬を実施後、ホルモン治療を実施。保険会社勤務。
脱毛後の仕事復帰とウイッグ選びのポイント
ー まず乳がんが発覚してから治療を受けるまでの経緯を教えてください。
磯部さん:セルフチェックをしたらたまたましこりを見つけて、それでレディースクリニックを受診しました。
そこでは、エコーを撮ったのですが、「影がそこまで大きくないし、年齢も若いから大丈夫だと思うけど、念のため、総合病院で検査してみますか?」と言われて、紹介状を書いてもらいました。総合病院ではマンモグラフィーとエコーと針生検を受けて、診断を受けました。
最初影が見つかった時は、乳腺炎とか他の可能性もあるだろうし、先生も「大丈夫だと思う」と言っていたので、心配していなかったのですが、総合病院へ検査結果を聞きに行く前日あたりに電話がかかってきました。 「結果を聞く日はお一人でいらっしゃいますか?」と問われ、こういう電話がかかってくるということは乳がんだったんだろうと予想をつけて聞きに行きました。
そういった経緯だったので、先生から結果を聞かされる前に、自分の中で覚悟ができていたのと、保険会社で働いているのでがんに対する知識があり、人より恐怖心も少ないぶん、驚きはありませんでした。
ただ、初回の診察で治療方針の説明を受ける中で、抗がん剤治療で髪の毛が抜けてしまうという説明を聞いた時には、ショックが大きく思わず泣いてしまいました。
ー 治療のために、お仕事はどれくらいお休みを取られたのですか?
磯部さん:診断を受けたのが8月で、仕事は10月からお休みをいただきました。それから職場に復帰したのは10か月後の翌年7月です。抗がん剤治療、分子標的薬の治療が終わったタイミングで復帰しました。そこからは、ホルモン療法を5年続けていたのですが、妊娠・出産のことを考えて今年ホルモン療法を終えました。
ー 仕事に復帰したころには、髪の毛は違和感がないくらい戻っていたのでしょうか?
磯部さん:少しは生えてきていましたが、ショートカットには届かないくらいで、ウイッグを付けて、普通に接客していましたね。周りにウイッグがバレていたかどうかは分かりませんが、髪色を褒められることはあっても、指摘されたことはないです。
ー 磯部さんの中で、ウイッグ選びのポイントにしていたことはありますか?
磯部さん:必ず見ていたのは”つむじ”です。自然に見えるかどうかを気にして、つむじに人工頭皮が付いているものを必ず選んで装着していました。あとはウイッグ特有のテカリとかも気になるので人工毛と人毛のミックスを使っていました。
将来の妊娠を考えて、卵子凍結を決意
ー 「妊娠・出産のことを考えて」というお話が先ほど出てきましたが、乳がんが発覚した時にすでにご結婚はされていたのですか?
磯部さん:いえ、発覚時も今の主人とお付き合いしていましたが、結婚はまだしていませんでした。乳がんの診断を受けたと打ち明けた時には「一緒に頑張ろう」って言ってくれて、お付き合いは続き、数年後にプロポーズをしてもらって結婚した感じです。
私、抗がん剤治療前に卵子凍結をしているのですが、卵子凍結をするにあたっていろいろ調べたときに、「卵子は単体で凍結するよりも受精卵で凍結した方が将来的に子供もできやすいらしいよ」みたいな話を彼とはしていて。
ただ当時は結婚はまだしていなかったので、受精卵凍結ではなく、卵子凍結という手段を選んだ感じですね。
でも、これは結婚した後に聞いた話ですが、彼はその話を聞いたときに「子どもができやすいんだったら、もう結婚をしよう」と伝えようと思っていたそうで、その時には既に結婚の意思はあったらしいです。
ー 当時は、今ほど「がん経験者の妊孕生温存」について話題に上がっていなかったと思うのですが、磯部さんが卵子凍結をしようと思ったのはどういったキッカケだったのですか?
磯部さん:たしか乳がんと診断された時の診察で、抗がん剤治療をすると生殖機能に影響があり、抗がん剤が終わった後にも生殖機能が必ず元に戻るわけではないという医師からの説明があって、その時に卵子凍結という方法があるということを看護師さんから教えてもらったと記憶しています。
私は将来、絶対に子どもを産みたいと思っていたので、自分が住んでいる地域ならどこの病院で卵子凍結をできるかを自分で調べて、次の診察の時に主治医に「やりたい」と伝えました。
ー 費用はいくらぐらいかかりましたか?
磯部さん:当時は助成金制度もまだなかったので全て自費で払いました。試験管みたいなところに卵子を保存しておくのですが、私の場合は保管期間は1年間(更新可)で1万円かかりました。病院によって多少差はあるとは思いますが、トータルだと44万円くらいかかったと思います。
再発リスクについてどう考えた?
ー ホルモン療法を始めて5年経って、今年ひと段落したとのことでしたが、ホルモン療法は5年以上続けた方が再発のリスクを抑えられると言われていたりもします。ホルモン療法をやめるにあたり、葛藤とかはなかったのでしょうか?
磯部さん:なかったですね。私の場合は、絶対に5年でやめると、治療を始める前から決めていました。26歳からホルモン療法を始めたので、もし10年続けるとするとその頃に私は36歳になってしまうので。
今は、36歳で初産の方も多いですけど、高齢出産に近い年齢で産みたくはないという意識の方が強かったです。親は「やっぱり10年間、続けたほうがいいんじゃないの?」と、言ってくれていましたが、主治医とも相談して私の中ではやっぱり子どもを産むことを優先に考えていて、気持ちは変わりませんでした。
ー 闘病中にパートナーの方からされて嬉しかったことはありますか?
磯部さん:私を優先して色々と考えてくれるところはとても嬉しかったですね。本当に私以上に心配してくれているなと普段から思うので、ありがたいなと思いますね。
治療中は、家の中にいる時間が長くなって、それだけでもストレスが溜まるので、そういうのを見かねてよく外に連れ出してくれました。
ー 確かに、がんを経験していない私でも、1日中家の中にいると気分が沈んでしまいます。
磯部さん:そうですよね。がん患者の中には「私はずっとがん患者として生きないといけない」と考えてしまう方もいますが、そんな必要は全然なくて、できないことって意外となかったりします。
でも、「他の人はこういうことができるけど、私はこれができない」とか、一度考え出すと、どんどん気持ちも沈んできてしまう。常に自分はがん患者だから、がん患者らしく振る舞わなきゃいけないみたいに思わないで過ごすのがいいのかなと思いますね。
※この記事はご本人から許可をいただき掲載しています。内容については個人の体験を元に構成したものであり、治療等の条件はすべての方に当てはまるわけではありませんし、治療方針については当社が推奨するものでもありません。ご自身の主治医とよく話し合い、最善の治療を選択してください。