乳がんを経験すると、ご本人はもちろんですが、ご家族も再発・転移に対する不安を抱いてしまうことも多いのではないでしょうか。しかし、現代は治療技術の進化により、複数の治療方法が選べる時代。
再発や転移が発見された場合に最適な治療が選べるよう、治療方法に関する知識を身につけ、万一に備えましょう。
再発・転移について
がん治療を行ううえで、再発や転移という言葉を耳にする機会は多いでしょう。ここでは、両者の違いや症状などをご紹介します。
再発とは、生き残っていたがんが再び出現すること
再発とは、初回のがんと同じ場所やすぐ近くで、体内に生き残っていたがん細胞が再び出現すること。局所再発とも呼ばれ、乳がんの場合は治療を受けた側の乳房や、周囲のリンパ節に出現します。
実は、がんは最初に発見された時点で、微小転移と呼ばれる目に見えないがん細胞があるケースがほとんど。微小転移は治療後も体内に残り、成長すると再発というかたちで現れてしまいます。
そのため、がんの再発はまれなことではないのです。
転移とは、がん細胞が最初に発生した場所から移動し、増殖すること
転移とは、最初に発生したがん細胞が血液やリンパ液を経由して別の臓器や器官に移動し、その場所で増殖することです。
転移は、リンパ液の流れが集まるリンパ節や、血液の流れが豊富な肺・脳・骨などに多く、遠隔転移とも呼ばれます。
乳がんは10年ほど経ってから再発することも
乳がんの再発は、手術後2〜3年もしくは5年前後くらいに起こることが多いようです。しかし、再発の時期は乳がんのサブタイプや進行度によっても異なるため、10年以上経ってから再発するケースもみられます。
再発・転移したときの症状は?
乳がんが再発したときに自覚できる症状は、乳房のしこりや皮膚の炎症、リンパ節のしこりや腫れなどです。転移の場合は部位により症状が異なり、肺は息苦しさや咳、脳は頭痛やふらつき、骨は手足のしびれや痛みなどが起こりやすくなります。
しかし、すべての方に症状が現れる訳ではありません。症状がまったくないまま検査で再発が判明する方も多いため、症状の目安はあくまでも参考程度にしてください。
再発・転移したとき、どんな治療がある?
では、乳がんの再発や転移が判明した際には、どんな治療法があるのでしょうか? 基本的な治療方針は、手術・放射線治療・薬物療法です。
手術・放射線治療
乳がんの手術には、乳房を温存する「乳房部分切除術」と乳房全部を切除する「乳房切除術(全摘術) 」があります。局所再発の場合は、「手術+再発予防治療」が基本。初回の治療方法により再発時の治療内容が異なります。
初回で乳房を温存した場合は、再発時の手術では全切除が基本です。ただし、再発までの期間が短い場合やがん細胞が小さい場合、患者さんの強い希望がある場合は温存できるケースもあります。
初回で乳房を全切除した場合は、再発までの期間により手術・放射線治療・薬物療法の順番が異なります。放射線治療とは、がん細胞を死滅させるためのX線や電子線を対外から照射する治療方法です。
薬物療法
薬物療法(ケモセラピー、ケモともいう)とは、がん細胞の増殖を薬物により抑える治療法です。手術や放射線治療はがん細胞をピンポイントで攻撃するのに対し、薬物療法は広い範囲でがん細胞の抑制を行います。
遠隔転移の場合、がん細胞の範囲が広く手術で取り除くことは難しいため、薬物療法を行うことがほとんどです。乳がん治療で行われる薬物療法には「化学療法」「ホルモン療法」「抗HER2療法」などがあります。
がん細胞の性質や、どこに転移をしているか、また再発までの期間によって治療法が変わります。
1.化学療法
化学療法とは一般的に、抗がん剤による治療を指し、全身に広がったがん細胞の増殖を抑制したり、死滅させたりする効果を期待できます。乳がんが、肝臓や肺など他の部位に転移したとしても、それらは乳がんの性質をもっているため、乳がんに効果のある抗がん剤によって治療されます。
がん細胞の性質によっては、免疫チェックポイント阻害薬やPARP阻害薬といった薬剤が選択される場合もあります。
2.ホルモン療法
ホルモン療法とは、女性ホルモンを栄養として増殖するタイプのがん細胞に有効的な治療法です。
女性ホルモンに含まれるエストロゲンなどを抑制することで、がん細胞の増殖を防ぎます。
閉経前の場合は主に、LH-RHアゴニスト製剤と抗エストロゲン薬 (タモキシフェンなどが主成分) を併用。閉経後の場合は主に、抗エストロゲン薬、またはアロマターゼ阻害薬が使われます。
アロマターゼ阻害薬とがん細胞の増殖に関わるmTORタンパクの働きを阻害する「mTOR阻害薬」を併用すると、がんの進行を遅らせる効果が期待できます。
ホルモン剤による効果がみられなくなった場合には、化学療法に変更する場合もあります。
3.抗HER2療法
抗HER2療法とは、病気の原因に関わる特定の分子だけを選んで攻撃する分子標的治療のひとつです。HER2とはがん細胞に「増殖しろ」という指令を出すタンパク質のため、細胞表面にHER2タンパク質がたくさんあると、がん細胞が増殖し続けてしまいます。このHER2タンパク質の働きをブロックする薬が、抗HER2薬(分子標的薬)です。代表的な抗HER2薬は、ヒト化モノクローナル抗体(トラスツズマブ)です。治療の際は、単独で使ったり、他の抗HER2薬と組み合わせて使ったりします。
再発・転移に備えるためにできること
がんの再発や転移が判明すると、初発のときよりもさらに大きな衝撃を受ける方が多いと聞きます。精神的な不安と同時に経済的な不安を感じる方は少なくありません。しかし、経済的な不安は準備次第で軽減できます。ここでは、再発や転移に備えるためにできることをご紹介します。
がん患者さんが使える支援制度
1つ目は、がん患者さんが使える支援制度を把握しておくことです。日本には、高額療養費制度や傷病手当金をはじめとした、公的保険が複数あります。治療にかかる費用が軽減できるため、事前に確認しておきましょう。
再発時に使える「乳がん・子宮がん・卵巣がん経験者専用がん保険」
2つ目の方法が民間保険への加入などによる自助努力での備えです。MICIN少額短期保険の「乳がん・子宮がん・卵巣がん経験者専用がん保険」は、初めて罹患したがんが、乳がん、子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がんのいずれかという方のためのがん保険。ステージ2までの方が申込み可能で、がんの再発や新たながんと診断されたときに80万円が一括で受け取れます。
仮に、高額療養費制度を利用した際の月々にかかる治療費が5万円だった場合、80万円あれば1年4ヶ月分の治療費に充てることができます。(9万円だった場合は、約9か月分)
また、給付金は治療以外にも自由に使えるため、交通費や食費、サプリやウイッグ、その他気分転換のための費用などにも充てられます。貯蓄などで備えるという手ももちろんありますが、初発のがんの手術から5年間という再発の心配が特に大きい時期の備えとして、ぜひ覚えておいてください。
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※情報は2023年1月時点
■医療監修
西 智弘 医師
2005年北海道大学卒。
室蘭日鋼記念病院で家庭医療を中心に初期研修後、川崎市立井田病院で総合内科/緩和ケアを研修。
その後2009年から栃木県立がんセンターにて腫瘍内科を研修し、2012年から川崎市立井田病院にて腫瘍内科・緩和ケアに従事。
また2017年に一般社団法人プラスケアを立ち上げ、暮らしの保健室や社会的処方研究所の運営に携わっている。
日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医。
MICIN-2301-S-0245-00