
治療が始まってから、以前よりも食費が高くつくようになった気がする。そんな実感を持つ人は少なくありません。
がんの治療中においては食費が膨らむのは決して贅沢したからではなく、買い物や調理に割く体力が落ちて出来合いの惣菜に頼らざるを得なくなるなど、これまでの生活における「無理ができなくなった」というケースも多いもの。家計簿を見直して、医療費だけではなく、食費のふくらみが気になることもあるのでは。
家計の支出のうち、食費が占める割合を「エンゲル係数」と言います。
今回は、治療と家計をつなぐキーワードとしてエンゲル係数を取り上げます。
エンゲル係数とは?—実は「貧困度」を測る指標
エンゲル係数とは、消費支出に占める食費の割合のこと。
たとえば、月の支出が20万円で食費が6万円なら、エンゲル係数は30%。
この数値が高いほど、食費が家計を圧迫している状態を意味します。
総務省の調べによると、2024年のエンゲル係数の平均は、28.3%、前年より0.5ポイントの上昇でした。
(二人以上世帯「家計調査報告(家計収支編)2024年(令和6年)平均結果の概要」より)
エンゲル係数が高い→食費の割合が高い→食べていくのに大変で、贅沢品まで支出できない、という解釈で、エンゲル係数は貧困度を測る指標として使われています。
エンゲル係数が低い
→ 食費以外に使える余裕がある
→ 生活にゆとりがある
エンゲル係数が高い
→ 食費が家計を圧迫している
→ 生活が苦しい
かつては「先進国ほどエンゲル係数が低い」と言われましたが、近年は物価高騰などもあり、単純に比較できなくなっています。
また、長期の治療が必要ながん患者さんの場合では、患者さんならではの理由が複雑にからみあっています。
エンゲル係数が高くなるのはどういう時?
エンゲル係数は、生活の厳しさをあらわす指標。数値が上がれば生活が苦しくなりがちです。
では、エンゲル係数が上がるのはどんな時なのでしょうか。
それには、治療による体調や、生活の制限、働き方の変化が影響しています。
(1) 収入減少
休職・時短・離職など、働く時間が減ることで収入が下がった場合です。
収入が下がれば、支出全体も下がります。すると、食費そのものの金額は変わらなくても、相対的に食費の割合が増えて、エンゲル係数は上昇します。
(2) 外食・テイクアウトが増える
買物や調理が負担になり、コンビニやデリバリーに頼りがちになるケースがあてはまります。
加工食品や出来合いの惣菜は単価が高く、食費を押し上げます。
(3) 食べられるものが限られる
治療の副作用などで、味覚変化や胃腸障害などで食べられるものが限られることがあります。
医療者からも、「無理せず、食べられるものを食べられるだけ」と言われることもあるでしょう。
食べられるものを買うことを優先した結果、コスパよりも食べやすさ重視の出費になります。
(4)栄養補助食品・宅配食の利用
医師や栄養士の勧めで利用しても、保険がきかないために費用がかさむケースも。
これらを合わせると、「頑張って節約しているのに、なぜか家計が苦しい」という感覚になるのも無理はありません。
数字で見ると現実がわかる
治療が長引くと、家計の心配も増してくるのではないでしょうか。
不安は先がわからない時に大きくなりがちです。ですから、そんな時は数字にして現実に向き合うのも、いいタイミングかもしれません。
エンゲル係数の計算手順はシンプルな3ステップ、実際に計算してみましょう。
- 1か月の支出合計を出す(家賃・光熱費・通信費など含む)
- 食費(自炊・外食・テイクアウトなど)を合計する
- 食費 ÷ 総支出 × 100=エンゲル係数(%)
例:
食費6万円÷総支出20万円×100 = 30%
食費6万円÷総支出30万円×100 = 20%
同じ6万円でも、支出全体が減ると数字が上がることがはっきりわかります。
ここで大切なのは、「上がった=悪い」ではなく、「家計が治療モードに入っている」サインだと捉えること。
エンゲル係数が高いからといって、家計管理が悪かったと自分を責める必要はありません。
むしろ、今後の生活設計を考えるきっかけになります。
収入減少にどう備えるか——支出の最適化と収入の底上げ
治療中の家計を守るには、節約だけでは限界があります。
支出と収入の見直しにポイントを絞りましょう。
(1)支出の最適化
エンゲル係数が高めだからといって、むやみに食費を削るのは健康を害するリスクが大きく、本末転倒です。
家計は全体のバランスで考えましょう。
医療費については、高額療養費制度、医療費控除など、公的制度を活用して医療費の支出を最適化しましょう。
自治体によっては、ウィッグなどのアピアランスケア用品の購入やレンタルに、助成金を出しているところもあります。
また、地域のNPO法人などがボランティア活動の一環で、手作り品を無料、もしくは低額でお分けしていることもあります。
情報収集には、がん診療連携拠点病院の相談支援センターなどを活用しましょう。
家計見直しでは、定期購入やサブスクなどの固定費の見直しを検討しては。
食費は「まとめ買い+冷凍」、「ネットスーパー利用」、「宅配弁当の併用」など、体調に合わせた工夫をしてみるといいでしょう。
患者会やがんピアサロンなどでは、患者同士の暮らしの知恵が得られることもあります。
(2)収入の底上げ
仕事を続けるなら、フリーランスや在宅ワークなど、柔軟な働き方を検討したいですね。
また会社員や公務員の場合、給与の約3分の2が保障される、傷病手当金があります。
最長で通算1年6か月まで受け取れます。
もし、退職することになったら失業手当の延長を申請しましょう。
失業手当の受給期間は原則として離職した日の翌日から1年間ですが、病気などのために引き続き30日以上働くことができない場合には、最長で3年間延長することができます。
ここで大切なのは、無理せず続けられる生活のリズムをつくること。
数字を整えることが目的ではなく、安心して療養を続けるための家計の安定を目指しましょう。

見直しのきっかけに—「エンゲル係数」で見える自分の生活バランス
エンゲル係数は、貧困を測る指標であると同時に、暮らしの温度計のようなものです。
上がったからダメ、ではなく、今の自分に必要なお金の使い方が変わったと受け止めてはいかがでしょう。
変化をきっかけに、制度を調べたり、FPに相談したりすることが、結果的に心とお金の安心につながります。
食事には、体を支え、心を保つはたらきもあると言います。
お金を使うことに罪悪感を持つより、支えるために使うと考えられるといいですね。数字の裏にある生活の物語を見つめることが、治療中の家計管理には何より大切です。

執筆 /松川 紀代(まつかわ きよ)
患者家計アドバイザー®AFP、2級ファイナンシャルプランニング技能士
メディカルFPサービス代表、一般社団法人患者家計サポート協会
2011年に乳がんが見つかり治療。がんの治療とお金に悩んだ経験から、2015年より患者支援を主軸としたファイナンシャル・プランナーとしての活動をスタート。
また、2016年からピアサポーターとしても活動をしている(日本癌治療学会認定がん医療ネットワークシニアナビゲーター)。FPとピアサポーターの視点を生かした患者支援を目指し、執筆、相談を中心に活動。