胃がんが発覚した、または家族が胃がんになってしまったことで、生活がどのように変化するのか、がん治療にかかる費用はどれくらいかなど、気にかかる部分は多数あるかと思います。
そこで今回は、MICIN少額短期保険が開催した胃がん経験者さんの意見交換会をレポートします。実際に胃がんに罹患した方が語る、胃がんが発覚したきっかけや生活の変化をお届けするので、胃がんについてお悩みの方はご覧ください。
小玉さん:24歳でスキルス胃がんになり、罹患してから16年が経過。3児の父。
後藤さん:44歳でスキルス胃がんになり、術後1年半の検査で肺に転移していることがわかり、追加で1年間の抗がん剤治療を受ける。
保さん:36歳で胃がんが36歳での時に検査を受けたところ、胃全体の複数箇所にがんが見つかる。摘出後は抗がん剤治療をせずに仕事復帰。
土井さん:46歳でスキルス胃がんの診断を受け、胃を全摘。術後抗がん剤治療を始めるが、副作用で抗がん剤治療を中止。1年経過後に再発し、4年間抗がん剤治療を受ける。
田村さん:51歳でスキルス胃がんが発覚。胃と食道間のがんが15cmで手術適応外だったため、術前化学療法を受けた後に全摘手術を受ける。
胃がん発覚後の生活の変化
-胃がん発覚後に起こった生活の変化で印象的だったことを教えてください。
小玉さん:栄養指導があったので食べるものや栄養を気にするようになったという点で変化はあったかなと思います。当時は97~98kgくらいあった体重が48kgにまで落ちたので、体力がなくなって行動範囲がかなり狭くなりました。自分の体力を気にして行動しなければならなくなった点が大変でしたね。
後藤さん:私も小玉さんと同じで食事面が大きく変わりました。胃がなくなったので少ししか食べられなくて、時間をかけて食べないとダンピング症状※2が出てつらかったです。
あと、仕事も救急外来の看護師をしていたのですが、救急だと急に多くの患者さんが来院することもあるので、食事もその合間合間で取らないといけないんですね。胃を摘出してからは、急いでご飯を食べることができないので、それが難しくて、勤務時間を変更していただき、夜勤なしの勤務にシフトさせていただきました。
保さん:私は、胃がんの診断を受けたのが結婚した次の年だったのですが、夫は結婚する前から、今の仕事では別の仕事に就きたいという夢を持っていました。その夢を叶えるためには2年間会社を辞めて、学校に行かなければいけないんだけども、ちょうど次の一歩を踏み出そうとしたそのタイミングでがんが見つかってしまい、学校に入学するのを遅らせるかどうか、考え直すことになりました。
私の仕事に関しても一日中、車で得意先を回るような仕事をしていたのですが、ダンピング症状の関係でこれまでのようには仕事ができなくなりました 。体調のことで残業にも配慮してもらっていましたが、「係長としての仕事をしていないじゃないか」と思われれたりないか、今後も働き続けられるのかというのが不安でした。
私の場合は独身なので、食べる量やタイミングを自由に決められた点はよかったと思います。病院の相談員をしているんですけれども、一人で動くことが多いので、自分のタイミングで休憩する等の調整はしやすかったんですがただ、抗がん剤の影響もあり体重が20kgも落ちてしまって。
体力もものすごく落ちていたので、フルタイム勤務を半日勤務に変えてもらい、それから少しずつ勤務時間を増やしていって、1年後にようやくフルタイムに戻すことができました。そのため給料は下がりましたね。
しかも体力がないので、今までなら最寄駅から職場まで徒歩で通勤していたところを歩けなくてバスを使ったり、帰ってきても疲れて料理をする元気もないので、ご飯代が余計にかかってしまったりで、経済的に厳しい時期が続きました。
田村さん:僕は会社を経営しているので、胃がんとわかってからすぐに、今後自分に何が起きても社員が困らないように、業務の引継ぎを始めました。また、引継ぎと同時に、万が一のことを考えて公正証書で遺言書も作成しました。
会社に勤めている方は給料や治療に割く時間が問題になるかと思うんですが、僕の場合は会社さえ動いていれば問題なかったので、その分自分の治療に専念できました。食事面の苦労については、入院中だけでなく退院後もしばらくは経腸栄養※2で食事を摂取していまして、ようやくチューブを外せた頃には20kgほど体重が落ちてしまいました。
※1 ダンピング症状:胃摘出後に起こる恐れのある症状。早期・後期に分けられ、早期は食後すぐに起こり、一時的に貧血のような状態に陥る。後期は食後2~3時間ほどで起こり、低血糖状態に陥る
※2 経腸栄養:チューブを使って体内に糖質や脂質、たんぱく質などを取り入れる方法
治療費について
ー 治療費に関してはどれくらいかかりましたか?
小玉さん:治療費用はさほど高くなかったと思います。多分トータル40万ぐらいだったかなと思います。決して安い金額ではないと思いますけど、払えないわけではなかったです。
後藤さん:胃がんになってから勤務体制が変わりボーナス額も減ったので、当時はとにかく節約していましたね。幸い生命保険とがん保険からお金をもらえたので当面は暮らしていけたのですが、それでもこのお金でいつまで暮らしていけるかと心配でしたし、がんだとわかる前に、もっと貯金しておくべきだったと後悔することもありました。
保さん:胃がんの治療費はほとんどかかりませんでした。会社の保険の付加給付があったので、かかった費用の大半は差額ベッド代です。以前、がん保険に加入していたんですけど、使わないと思ってちょうど前年に解約してしまっていたんです。まさかのことがあるんだなと実感しました。
土井さん:がんと診断された時点で一時金が入る民間保険に加入していたので、お金が入ったときは少し安心できました。でも、社会保険料は直前3か月の標準報酬月額で計算されるので経済的に厳しい時期が続いてしまって。罹患前の生命保険の見直しのとき、外来の給付を外してしまったことを後悔しました。
田村さん:治療費はかなりかかると思っていたんですが、予想よりはかかりませんでした。大きくかかったのは、差額ベッド代と奥さんも病院の隣にあるホテルに宿泊してもらっていたので、そこの宿泊代です。
胃がん罹患後に変化した気持ちや考え
-胃がん罹患前後で変化した気持ちや考え、またなぜ「希望の会(胃がんに関する情報提供やセミナーを開催する非営利活動法人)」に入会したのかを聞かせてもらえますか?
小玉さん:胃がんになってから、より自分の時間を大切にしようと考えるようになりました。以前までは出版社の営業職をやっていたんですが、自分のやりたいことを考えて、起業して飲食店を始めたんです。希望の会に参加したのは、がんに罹患していることで心に負担がかかっていて、そんなときに希望の会を知ってビジョンに賛同できたので入会しました。
後藤さん:がんになってから変わったのは、仕事一本だった価値観の変化でしょうか。自分のやりたいこともやるようになりました。がんに罹患したときは悲観的な気持ちになっていたのですが、今はとても元気だから、この姿をほかの人にも見てほしくて希望の会に入会しました。私は看護師なので、会員さんから医療的なアドバイスを求められることがありますが、反対に、患者さんからダンピング症状を抑えるための生活の工夫を教えてもらうこともあるんですよ。
保さん:がんになって、自分の時間に限りがあるんだということを痛感しましたね。それから、お金の使い方や人とのつながりを大切にするようになりましたね。希望の会に入会したのは5年前で、入会後に知り合った土井さんや後藤さんに食事面での情報を共有してもらいました。食べられないことへのつらさをわかりあえることに、心の支えを見いだせました。
土井さん:万が一のときに兄弟に迷惑をかけないようにと考えるようになりました。まとまったお金を別口座に入れ、私が入院して動けなくなったときに兄弟に渡せるようにしてあります。もしものことがあっても、兄弟にお金の迷惑をかけないよう準備できたので安心しました。希望の会に参加したのは、スキルス胃がんについてや治療について情報が欲しいと思ったからでした。研修に参加し、仲間と交流できたことは本当に力になっています。
田村さん:これまで仕事一本でやってきたので、後悔することがないよう、趣味に時間を使うようになりました。あとは、治療中はチューブから栄養を摂取していたので、口からものを食べられるありがたみを感じるようになりましたね。
チューブが外れてからは氷で食べる練習をして、アイス、おかゆ、豆腐や魚の順に食べて、今では和食が大好きになって。以前までは辛いものや脂っこいものが大好きだったんですが、辛いものを食べるとあとが大変なので、食べ方にも気を配っています。
まとめ
胃がん経験者さんの意見交換会では、食事や金銭面での悩みが多く寄せられました。胃摘出後は食後にダンピング症状が起こる恐れがあるため、食べるものやタイミングに気を遣わなければなりません。経験者の体験をもとに、どのように工夫すべきかを考えることが大切です。
胃がんの治療費はさほどかからないという声が多いものの、その後の生活を考えると厳しい状況が続く人はたくさんいます。がん保険に加入することで万が一の備えができるため、未加入の方はこの機会に加入を検討してみてはいかがでしょうか。
※この意見交換会は、スキルス胃がん患者・家族会「希望の会」の協力の元、作成しました。
希望の会ウェブサイトは こちら