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株式会社encyclo 代表
水田 悠子さん
【子宮頸がん体験談】「美しくありたい想いを解放する」リンパ浮腫に特化した商品を。弾性ストッキングの商品開発秘話・後編

2023.03.12

「リンパ浮腫」とは、がん治療の後に発症するケースが多い疾患です。今回、お話を伺ったのは、リンパ浮腫の方に向けたビューティー事業を展開する株式会社encyclo(エンサイクロ)の代表、水田悠子さんです。水田さんは、20代で子宮頸がんを罹患され、治療後にリンパ浮腫を発症。復職後、2020年にencycloを立ち上げました。

前編はこちら→

encycloでは、リンパ浮腫患者さん向けのケア用品を企画・販売されています。ご自身の経験はもちろん、患者さんの声を聞き、商品開発に活かしているのだとか。罹患当時や治療後は、ふさぎ込んだ時期もあったという水田さんですが、今ではリンパ浮腫とうまく付き合いながらご自身も「ビューティー」を楽しんでいて、それを多くの方に伝えたいと言います。

水田 悠子

東京生まれ。2005年 株式会社ポーラに入社し、販売現場や、新商品の企画開発を経験。2012年29歳のときに、子宮頸がんを罹患。1年あまり休職して治療に専念した後、同職場に復帰。 2018年よりオルビス株式会社に異動後も商品開発に携わる。2020年5月、ポーラ・オルビスグループより株式会社encycloを創業。

弾性ストッキングの「見た目」と「履きにくさ」に驚愕

Q.リンパ浮腫ケアの経験やその中で感じた課題をお聞かせください。

リンパ浮腫のケア方法を教わったクリニックで、最初に弾性ストッキングを見たときは衝撃を受けました。「ストッキングさえ履いていればいろいろなことができるよ」「ストッキングはあなたの味方だから!」といって差し出されたストッキングが、自分が思っていたストッキングとあまりに違ったからです。

ストッキングといえば、薄く、透けているイメージがあると思いますが、差し出されたものはまるでサポーターのように分厚くいもの。

「これを毎日、一生、履き続けるの?」と呆然としました。

しかも、このストッキング、固くて引き上げるのにすごく力がいります。とても履きにくくて素手では履けないので、外出するときはゴム手袋をいつも持ち歩いていていました。

専用のフィッティンググローブもあるのですが、私も含め、患者さんの多くは掃除用やガーデニング用のゴム手袋で、ストッキングの素材との相性が良いものを探して使っています。

もちろん、好んで掃除用のゴム手袋を持ち歩いているわけではありません。こうした点も、リンパ浮腫ケアの悲しさのひとつなのですよね。

弾性ストッキングを履き始めたのはちょうど復職するタイミングだったのですが、出勤前に履くのにかかった時間は、なんと20分。

夏だったので、履き終わった頃には汗だくで(笑)。当時はウィッグだったので、頭から汗がしたたり、眉毛もないので汗が目に入り……といった状況でした。

また、リンパ浮腫ケアには、保湿も欠かせません。常にストッキングを履きつつ、お肌にも気を配らないといけない……この両立って、実はすごく難しいんです。

保湿すると、ただでさえ固いストッキングがさらに引き上げづらくなってしまうからです。加えて、どんなもので保湿すればいいのかもよく分からない。

一般的な美容のために作られている保湿剤とは違って、香りやテクスチャー、デザインにこだわっているようなものではないので、毎日塗り続けていてもテンションは上がらず、ただただ「塗らなければならない」という義務感だけで続けていました。

自分の経験や想いを形に!encycloの商品開発秘話

Q.encycloのコンプレッションストッキングの特徴は?

写真だけでもお分かりいただけると思いますが、encycloの「コンプレッションストッキング」は、みなさんが想像するストッキングに非常に近いものです。

初めて見た方には、まず「透けている!」と感動していただけます。

とはいえ、もちろん薄く、透けていればいいというわけではありません。

大切な着圧機能もしっかり備わっています。

そして、この「肌色」にもこだわりがあって。私は、がんに罹患する前、ポーラでファンデーションの開発に携わっていて当時の知見が活かされています。

多くの人の脚を一番綺麗に見せられる色にしたいと思い、日本人の肌の色を研究したビッグデータから色を反映しています。あとは細かいところになりますが、おなかの中央(広汎子宮全摘術は、みぞおちの下あたりからおへそをまたいで傷が残ります)おヘソのラインに当たる部分には縫い目を作っていません。あしに浮腫がある方の多くは、おなかの中央に手術痕があります。ここに縫い目がないことで、違和感を持ちにくい設計になっています。

また「Made in Japan」というのも、encycloのコンプレッションストッキングの大きな魅力です。

従来までの弾性ストッキングの多くは海外製で「ウエストが大きい」「レッグ部分が長い」など、サイズ感が合わないというお声が多くありました。

このストッキングは、オーダーメイドの医療用ストッキングもたくさん作っている国内工場で製造しています。日本人の体型データを多くお持ちなので、日本人に合ったサイズ設計ができました。

また「滑りやすい」とのお声を反映し、足裏部分には滑り止めの加工をしています。

見た目だけでなく、細かな部分にまで徹底的にこだわった機能面にも注目していただきたいですね。

Q.コンプレッションストッキングの購入は保険適用になるのでしょうか?

2008年4月から、リンパ浮腫治療のための弾性着衣の購入に保険適用となりました。

編注:医師の指示に基づき購入する弾性着衣(スリーブ・ストッキングなど)が年に2回計4セットまで(1回の購入時2セットまで)を療養費として申請することが認められた。

令和2年3月5日保医発0305第1号
診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(通知)
【厚生労働省説明:改正箇所赤字】
診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について

Q.encycloの保湿クリームの特徴は?

むくみケアを意識した保湿クリーム「ボディモイスチャライザー」は、ポーラ・オルビスグループの知見を活かし、気温や湿度変化が大きく四季のある日本で、24時間365日お肌を潤った状態にすることを目指して開発しました。こちらも機能とともに、毎日、続けたくなるような“+α”のこだわりが満載です。黄色の「アウェイクタイム」とピンクの「ハグタイム」の2本をご用意した理由は、季節や時間帯で使い分けていただきたいから。

アウェイクタイムはさっぱりとした軽さが特徴で、ストッキングを履く前、スリーブを付ける前や暑い時期にぴったりです。一方、ハグタイムは保湿力、保護力が高いタイプなので、お休み前や乾燥する時期のご利用をおすすめしています。いずれも、ケア中もケアした後も気持ちが満たされるよう、香りにもこだわりました。好みや気分で使い分けていただくのも良いと思います。

Q.encycloの商品をどのような方にご利用いただきたいですか?

これまで、「これまでリンパ浮腫になったら、おしゃれを楽しむことや、気持ちがワクワクするという観点で使うものを選ぶことはあきらめなくちゃいけないと思っていた方

「おしゃれを楽しむことを諦めなければならない」「気持ちがワクワクするという観点で使うものを選べない」と思っていた方にご利用いただきたいですね。

リンパ浮腫は症状が多様なので、私たちの[TO1] 商品が全ての方にとっての最適ではないかもしれません。ただ、リンパ浮腫ケアの選択肢が増えることで、より多くの方が日常を豊かに過ごしていただけるはずです。

リンパ浮腫とうまく付き合いながら「ビューティー」を楽しむ

リンパ浮腫は、一生付き合っていかなければならない疾患です。だからこそ、うまく付き合うことが最も大切だと私は思っています。

リンパ浮腫を発症した頃は、毎日、脚あしの太さを測って、写真を撮って、スマートフォンの写真フォルダが脚あしの写真でいっぱいでした。

「朝起きてからお風呂に入る前まで、一生、ストッキングを履いてケアをしなければいけない」「サボったら大変なことになる」と、一種の強迫観念に駆られていたのです。

今思えば、過剰に気にしすぎていました。

最近は、リンパ浮腫ともうまく付き合えるようになってきて、1週間程の長いスパンでケアを考えています。

例えば、立ち仕事が続いたらしっかりケアしますが、お休みの日はケアもリラックスモードです。決して、脚あしのために生きているわけではありませんからね(笑)。

こう思えるようになるまで時間はかかりましたが、悩んだからこそリンパ浮腫に悩む方々の課題に気付くことができたencyclo style」では、リンパ浮腫と前向きに向き合う人へのインタビューや、リンパ浮腫の方が取り入れられるおしゃれなアイテム、アイデアをご紹介しています。

リンパ浮腫との向き合い方やそれに伴うエピソードも募集しているので、ぜひ覗いてみてください。

Q.encycloや水田さんの目標をお聞かせください。

今後は、リンパ浮腫の方以外に向けた商品も作っていきたいと思っています。

そもそも「むくみ」って、がんを経験した方以外でも、多くの女性が悩んでいることですよね。

私やencycloには、リンパ浮腫治療に携わる中で学んだ、生活の中で上手にむくみを解消する多くの知見があります。これを、むくみを感じながらも諦めてしまっている多くの方のために使っていきたいなと、最近はそんなことを考えています。

すごく前向きなことを言っているようですが、がんを罹患してからというもの、ふさぎ込み、自分を押し殺して生きていた時期が私にもありました。

がんが発覚したばかりの方、治療を終えたけど気持ちは元通りになっていない方、治療が終わったけどリンパ浮腫を発症してしまった方……

いろいろな方がいらっしゃると思いますが、無理に前向きになる必要はありません。

毎日を生き抜いているだけで100点満点です。

誰よりも自分に優しく、無理せず、できる範囲でがんやリンパ浮腫と向き合っていきましょう。

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