女性特有のがんといえば、乳がんや子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がんなどをイメージする方が多いのではないでしょうか。でも実は、肺がんも女性の罹患割合が高いがんなのです。喫煙との関連が大きいとされていますが、非喫煙者でも肺がんになるリスクがあります。
肺がんとは、気管支や肺胞などの細胞ががん化したものです。腺がん・扁平上皮がん・大細胞がん・小細胞がんがあります。中でも腺がんの割合が最も高く、扁平上皮がん、小細胞がん、大細胞がんと続きます。
今回は、肺がんに注目して、女性の罹患数や罹患割合、5年生存率、治療法などについて詳しく解説します。
女性の肺がんの罹患数
2019年のデータ(下図)によると、肺がんの罹患数は女性が42,221人、男性が84,325人でした。乳房の97,142人、大腸の67,753人に次いで、3番目に多いがんです。
出典:日本対がん協会「がんの部位別統計」
肺がんの5年生存率
ここでは、肺がんの相対生存率※を紹介します。
※生存率には、「実測生存率」と「相対生存率」があります。実測生存率は、がん以外が原因で亡くなった人を含みますが、相対生存率は、がんが原因で亡くなった方のみに注目した生存率です。「がんに罹患している人の実測生存率」を「がんに罹患していなかった場合の期待生存率」で割って算出します。
国立研究開発法人 国立がん研究センターの「特別集計:患者年齢・病期別の生存率」によると、肺がんの5年相対生存率は次のとおりです。
- 全体……41.4%
- ステージI……81.6%
- ステージII……46.7%
- ステージIII……22.6%
- ステージIV……5.2%
肺がんは、ステージが進むごとに相対生存率が大きく低下する傾向にあります。早期発見と言えるステージIでも生存率が8割程度です。また、ほかのがんと比べると5年相対生存率が高いとはいえず、再発率についてはステージ1の非小細胞肺がん(腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん)でも約20〜30%といわれています。そのため、なるべく定期的な検診を欠かさず、できるだけ早期発見・早期治療が重要です。
肺がんのリスクを高める要因
肺がんは、喫煙をはじめとするさまざまな要因で発症リスクが高まります。肺がんのリスク要因について詳しくみていきましょう。
喫煙
肺がんは、肺細胞の遺伝子が傷つき、それを修復する過程で異常が起きてがん細胞に変化することで発症します。肺細胞の遺伝子を傷つける要因はさまざまですが、中でも影響が大きいといわれているのが喫煙です。
喫煙者は、扁平上皮がんと小細胞がんを合わせてリスクが男性で約12.7倍、女性で約17.5倍に増加します。一方、腺がんのリスクは男性で2.8倍、女性で2.0倍に増加します。 喫煙本数が多くなるほどに、また喫煙歴が長くなるほどに肺がんの発症リスクが高くなります。また、タバコの煙(副流煙)を吸うことによる受動喫煙でも肺がんのリスクが約1.3倍に増加するため、非喫煙者でも注意が必要です。
アスベストの吸引
アスベストの吸引も肺がんのリスクを高めるといわれています。アスベストとは、石綿(いしわた・せきめん)とも呼ばれる天然の繊維状けい酸塩鉱物です。耐火被覆材やスレートボードなどに使われていましたが、1975年年にアスベストの使用が一部で禁止され、2012年からはアスベストの使用が全面禁止となりました。
繊維が極めて細いため、アスベストを使用した建築材解体などの際に、必要な措置を行わないと周囲に飛散し、人が吸引するリスクがあります。アスベストを吸い込んだ可能性を示唆する所見が胸部X線写真で見つかることもありますが、全てのアスベスト被曝者に所見が現れるわけではありません。古い建築物の解体に従事するなど、アスベストにさらされる作業に従事していた方やその家族、またアスベストを取り扱う工場の近くに居住していた方などリスクが高い方で、心配な方はアスベスト疾患センターに相談しましょう。
肺がんの初期症状
肺がん特有の初期症状はなく、進行した場合でも症状が現れないことがあります。肺がんの症状としては、咳や痰(血が混ざった痰を含む)、息苦しさ、胸の痛みなどが挙げられますが、これらは風邪や気管支炎などでも現れる症状です。
肺がんを早期発見するためには、症状がみられたら受診するのはもちろん、定期的にがん検診を受ける必要があります。国が主導する40歳以上の人を対象とした肺がん検診はもちろん、40歳までにも必要に応じて検診を受けることが大切です。
肺がん検診では、健康診断で行う胸部X線検査を行います。また、ハイリスク群に該当する方は、痰に含まれるがん細胞を調べる検査を受けることが勧められます。
ハイリスク群とは、原則50歳以上で喫煙指数600以上の方(重喫煙者)を指します。喫煙指数の計算方法は「1日の平均喫煙本数」×「喫煙年数」です。例えば、1日の平均喫煙本数が20本で40年吸っている場合は、喫煙指数は800でハイリスク群となります。
また、50~74歳の重喫煙者については、低線量胸部CTを用いた肺がん検診による死亡率低下が示されており、ご希望される方は検診機関にて相談してみることをおすすめします。
肺がんの検査方法
肺がんが疑われる場合は胸部X線検査を行い、異常がみられた際はCT検査でさらに詳しく調べます。そして、肺がんが疑われる部位が見つかった場合は、細胞や組織を採取してがんかどうかや、がんの種類について診断します。
細胞や組織の採取には気管支鏡検査を行うことが多く、場合によっては経皮的針生検や胸腔鏡検査などを行います。それぞれの検査の概要は次のとおりです。
- 気管支鏡検査……先端に小さなカメラがついた3~6mm程度の管で気管支の中を観察する検査
- 経皮的針生検……身体の外側から針を差し込み、組織や細胞を採取する検査
- 胸腔鏡検査……胸壁に小さな切り込みを入れて胸腔内へ胸腔鏡を入れ、詳しく調べる検査
肺がんの治療法
肺がんの治療法は、「小細胞がん」とそれ以外のがん(腺がん、扁平上皮がんなど)である「非小細胞がん」で異なります。小細胞肺がんの治療の中心は薬物療法で、ごく早期の場合は手術を行うこともあります。また、片側の肺に留まっている場合や、左右の肺に挟まれた空間および鎖骨の上あたりにあるリンパ節にまでしか広がっていない「限局型」の場合には、身体の状態によっては放射線治療を併用します。
非小細胞肺がんの治療の中心は手術療法です。再発予防を目的に手術後に薬物療法を行う場合もあります。また、身体の状態や合併症などの影響で手術が困難な場合は、放射線治療を検討します。 肺がん治療における手術・放射線治療・薬物療法について詳しくみていきましょう。
手術
肺がん治療における手術とは、がんを切除する治療法です。胸部の皮膚を15~20cmほど切開する「開胸手術」、皮膚を小さく数カ所切開してカメラを挿入する「胸腔鏡手術」があります。
放射線治療
放射線治療とは、がん細胞に放射線を照射してダメージを与える治療法です。皮膚炎や食道の炎症、咳、貧血、白血球の減少などの副作用があります。
薬物療法
薬物療法とは、薬でがんの進行を抑えたり治療したりするほか、症状を和らげる治療法のことです。小細胞肺がんでは、主に「細胞障害性抗がん薬」を使用しますが、場合によっては「免疫チェックポイント阻害薬」と併用します。
非小細胞肺がんの薬物療法では、「細胞障害性抗がん薬」「分子標的薬」「免疫チェックポイント阻害薬」を使用し、必要に応じて併用します。薬の概要は次のとおりです。
- 細胞障害性抗がん薬……細胞増殖の仕組みの一部を阻害することでがん細胞を攻撃する薬
- 分子標的薬……がん細胞の栄養源となる特定のタンパク質の働きを抑える(供給を断つ)ことで、がん細胞の増殖・転移を防ぐ薬
- 免疫チェックポイント阻害薬……がん細胞が免疫にブレーキをかける働きに作用し、免疫ががんを攻撃する能力を維持する薬
肺がんの術後合併症
肺の手術後は肺活量が低下します。そうすると、肺炎の合併症を引き起こす恐れがあるため、手術前後のリハビリテーションと禁煙によって予防することが重要です。手術前のリハビリテーションで呼吸訓練や、肺活量の維持・向上を目指すエクササイズを行うことで、手術による肺活量の低下を抑えることが可能です。 また、禁煙も治療後の肺炎リスクの減少に効果が期待できます
まとめ
肺がんは、女性のがんの中でも乳がんや大腸がんに次いで罹患数・すべてのがんに占める割合が高いがんです。
治療法は手術や薬物療法、放射線治療ですが、小細胞肺がんと非小細胞肺がん、進行度、身体の状態などで異なります。
再発においても早期発見・早期治療が重要なため、主治医の指示のもとで定期検診を欠かさず受けましょう。
■医療監修
西 智弘 医師
2005年北海道大学卒。
室蘭日鋼記念病院で家庭医療を中心に初期研修後、川崎市立井田病院で総合内科/緩和ケアを研修。
その後2009年から栃木県立がんセンターにて腫瘍内科を研修し、2012年から川崎市立井田病院にて腫瘍内科・緩和ケアに従事。
また2017年に一般社団法人プラスケアを立ち上げ、暮らしの保健室や社会的処方研究所の運営に携わっている。