乳がんのサブタイプとそれぞれの特徴・推奨される治療法を解説

2022.07.20

乳がんには、「サブタイプ」と呼ばれる分類があります。それぞれ効果が期待できる治療法や生存率などが異なるため、サブタイプに合わせた治療計画が立てられます。ここでは、乳がんのサブタイプとは何かを解説するとともに、それぞれの特徴や推奨される治療法などについて詳しく解説します。

サブタイプとは

乳がんのサブタイプとは、いわば「乳がんの種類」です。精密検査で採取した細胞を調べることで、サブタイプが判定されます。サブタイプによって効果が期待できる治療法が異なります。

ただし、サブタイプの分類に必要な遺伝子検査は費用がかかるうえにすべての患者に対して行うのは難しいため、採取したがん細胞を免疫染色という方法で調べる「免疫組織化学法」によって分類します。そのため、遺伝子検査によるサブタイプ分類と必ずしも一致しません。

ちなみに、ホルモン受容体陽性/HER2陽性タイプ、早期乳がん患者における再発リスクや抗がん剤治療の効果予測が可能な検査ツールもあり、オンコタイプDXやマンマプリントという製品については、医療者・がん患者双方からいつ保険適用されるのかと注目が集まっています。

乳がんのサブタイプ

乳がんのサブタイプは、女性ホルモンとHER2タンパクのどちらによって増殖するかで決定します。例えば、女性ホルモンによって増殖する場合は、「ホルモン受容体陽性」、HER2タンパクによって増殖する場合は「HER2陽性」です。

女性ホルモンとHER2タンパクの両方に反応するタイプ、両方とも反応しないタイプ、いずれか一方にのみ反応するタイプがあります。

上記、それぞれのサブタイプの特徴を詳しく見ていきましょう。

(1)ホルモン受容体陽性/HER2陰性

ホルモン受容体陽性/HER2陰性は、ルミナルAタイプとルミナルBタイプに分類され、乳がん全体の約60%を占めます。

(1-1)ルミナルAタイプ

ルミナルAタイプは、がんの増殖能力が低いタイプで、女性ホルモンを養分として増殖することが特徴です。そのため、抗がん剤ではなく女性ホルモンがホルモン受容体へ結合するのを阻害したり、女性ホルモンを減らしたりするホルモン療法(詳細は後述)が有効とされています。なお、がん細胞の悪性度が高いと判断された場合は、再発リスクを抑えるために化学療法(詳細は後述)を追加することもあります。

(1-2)ルミナルBタイプ

ルミナルBタイプはルミナルAタイプと比べてがんの増殖能力が高いため、多くの場合はホルモン療法と化学療法を併用します。化学療法を選択するタイミングは、再発リスクをはじめとしたさまざまな点を踏まえて決定するため、個人によって大きく異なります。

(2)ホルモン受容体陽性/HER2陽性タイプ

ホルモン受容体とHER2の両方が陽性のため、ホルモン療法と抗HER2療法のいずれも効果が期待できます。なお、抗HER2療法を選択する場合は、化学療法との併用が推奨されます。ちなみにホルモン受容体陽性/HER2陽性タイプは「トリプルポジティブ」とも呼ばれています。

(3)ホルモン受容体陰性/HER2陽性

ホルモン受容体が陰性でHER2は陽性の場合は、ホルモン受容体を持たないためホルモン療法は効果が期待できません。抗HER2療法と化学療法の併用を行うことが推奨されています。

(4)ホルモン受容体陰性/HER2陰性

このタイプはトリプルネガティブと呼ばれ、ホルモン受容体とHER2タンパクのいずれも持たない乳がんです。そのため、ホルモン療法や抗HER2療法の効果が期待できず、通常は化学療法を選択します。ただし、PD-L1陽性のトリプルネガティブ乳がんに対しては、免疫チェックポイント阻害薬を用いた免疫療法を行える場合があります。

PD-L1とは、がん細胞が免疫からの攻撃を防ぐように働くタンパク質です。これを阻害することで、化学療法の効果が現れやすくなる可能性があります。

乳がんのサブタイプ別の推奨される治療法

乳がんのサブタイプ別の推奨される治療法について、以下にまとめました。

少し難しい言葉が並んでいますが、治療法の説明について理解が及ばない点については、医師に遠慮なく尋ねてみましょう。また、持病や希望するライフスタイルなどを伝えて、治療法によって異なる効果や薬の副作用、治療費などを踏まえ、ご自身にとってベストな治療方針を医師と一緒に決めることが重要です。

それでは、上の表で紹介した乳がんの治療法について詳しく見ていきましょう。

ホルモン療法

ホルモン療法は、がん細胞が女性ホルモンを養分として増殖する場合において、女性ホルモンのエストロゲンを減らしたりホルモン受容体へのエストロゲンの結合を阻害したりする治療法です。ホルモン受容体陽性の乳がんであれば、ホルモン療法の効果が期待できます。

閉経前と閉経後では、エストロゲンが体内で生成される経路が異なるため、それぞれに適した薬を使用します。閉経前は、抗エストロゲン薬に加えて、LH-RHアゴニスト製剤の併用を検討し、閉経後にはアロマターゼ阻害薬か抗エストロゲン薬を使用します。

代表的な抗エストロゲン薬はタモキシフェンで、その主な副作用は、ホットフラッシュ(ほてり・のぼせ)、性器出血、骨密度の低下などです。また、不眠や気分の落ち込みなど精神的な症状が現れる場合もあります。

細胞障害性抗がん薬

細胞障害性抗がん薬(化学療法・ケモセラピーとも呼ばれる)は、細胞増殖の仕組みの一部を阻害することで、がん細胞を攻撃する薬です。がん細胞以外の細胞も影響を受けるため、さまざまな副作用が現れる場合があります。細胞障害性抗がん薬を使用するのはトリプルネガティブ乳がんですが、他のサブタイプでもがんの大きさや転移の有無、がんの増殖要因などを踏まえ必要に応じて使用します。

細胞障害性抗がん薬の種類は、アンスラサイクリン系薬剤やタキサン系薬剤などです。なお、ドキソルビシン(アドリアマイシン)とシクロホスファミドを併用する「AC療法」のように複数の薬を組み合わせる場合があります。

抗がん剤の副作用の種類や現れやすさなどは、使用する薬によって異なります。主に、吐き気や嘔吐、口内炎、下痢、便秘、倦怠感、発熱、脱毛、色素沈着、むくみなどが現れます。

分子標的薬

分子標的薬とは、がんの増殖に必要なタンパク質、栄養を供給するための血管、がんを攻撃する免疫に関わるタンパク質など、がん細胞以外を標的として結果的にがんを攻撃する薬です。例えば、がん細胞の増殖にHER2タンパクが関係しているサブタイプでは、HER2を標的とする分子標的薬を使用します。なお、分子標的薬は細胞障害性抗がん薬と組み合わせて使用することがほとんどです。なお、分子標的薬は保険適用外のものが多い一方で、保険適用のものが増えつつあります。

副作用は、皮膚障害や下痢、嘔吐、倦怠感、肝機能障害などで、薬剤によっては高血圧や鼻出血、タンパク尿などがみられることがあります。ちなみに副作用を抑えて治療する方法が確立されつつあるため、仕事や身の回りのことをしながら治療を受けたい場合はその旨を医師に伝えてみましょう。

まとめ

乳がんのサブタイプによって効果が期待できる治療法が異なります。どの治療法を選択するにしても、治療効果や副作用、治療費などのバランスを踏まえて、治療をどのように乗り切るのかを念頭に治療計画を立てることが大切です。医師はもちろん、自身を支えてくれる周りの家族ともコミュニケーションを取り、治療の準備や必要な備えを考えましょう。

・2022年6月時点の情報を元に作成しています。

<医療監修>

西 智弘:医師

2005年北海道大学卒。
室蘭日鋼記念病院で家庭医療を中心に初期研修後、川崎市立井田病院で総合内科/緩和ケアを研修。
その後2009年から栃木県立がんセンターにて腫瘍内科を研修し、2012年から川崎市立井田病院にて腫瘍内科・緩和ケアに従事。
また2017年に一般社団法人プラスケアを立ち上げ、暮らしの保健室や社会的処方研究所の運営に携わっている。
日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医。

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