大腸がんは、日本人で最も患者数が多いがんと言われていますが、手術後にはどのような生活を送る必要があるのでしょうか。食生活や排便障害との付き合い方について、国立がん研究センター中央病院の大腸外科長 金光 幸秀先生にお話を伺いました。
金光 幸秀先生プロフィール
1990年名古屋大学医学部卒業後、市立四日市病院外科医員、名古屋大学医学部第二外科入局。95年より国立がんセンター中央病院外科レジデントを勤め、98年帰局。2000年に愛知県がんセンター中央病院消化器外科部を経て、13年国立がん研究センター中央病院大腸外科長に就任。日本外科学会専門医、日本消化器外科学会専門医、日本大腸肛門病学会専門医、日本がん治療認定医。論文多数。
生活面に関して、過剰に心配する必要はありません
― 大腸がん患者さんにとって、食事面で注意した方がよいことがあれば教えてください。
金光先生 基本的に、あまり何かを気にすることなく 召し上がっていただいて問題ございません。大腸という臓器は、本来、水分を吸収するだけの臓器です。再発予防に関する論文はいくつも出ているのですが、今のところはっきりとエビデンスがあるものは、食事に関してはありません。
私が、普段聞かれたときにお伝えしていることは、いわゆる一般的に言われているようなバランスのいい食事を心がけることと、体重があまり増えない方がいいので、肥満にならないように運動を心がけるということです。これらは、がん以外の生活習慣病といった他の病気の予防にもなりますしね。
あとは、術直後の体力が落ちている1か月ぐらいは、回復ペースを気にしながら食べるようにした方がよいとは思います。それぐらいですね。治療が必要な腸閉塞が生じるのも、数パーセントぐらいなので過剰に心配する必要はありません。
― あまり過剰に心配する必要はないということですね。
金光先生 はい。体力が落ちるといっても、寝たきりになるほど極端に落ちることはないですし、手術から1か月もすれば戻ってくるので、今までやってきた日常生活を自分のペースで取り戻していけばよいと思います。
― 大腸がんといえば、排便障害に悩まれる患者さんも多いと聞きます。その場合、何か生活面で心がけることはあるのでしょうか。
金光先生 排便障害の程度は、がんができた場所とどんな手術を受けるかで、大方決まってしまいますので、うまく付き合っていくしかないですね。結腸がんの場合は、便秘になるくらいですみますが、直腸など肛門に近い箇所にできるほど重度になります。
だいたい2年くらいかけてよくなっていきますが、それを過ぎると症状の劇的な改善というのは見られなくなってくるのが一般的です。肛門周囲の筋肉を鍛えるリハビリをすることで、少しはよくなりますが、それにも限界があります。
ただ、排便障害で本当に悩まれる患者さんというのは、ストーマを造設した患者さんというよりは、むしろストーマ適用にも関わらず、無理に肛門を残すような手術を受けた方の方が多いです。
自分の肛門を残したい、できる限りストーマを付けたくないという患者さんのお気持ちもわかりますが、肛門を無理に残すことで後から重度の排便障害で悩まれるケースが報告されるケースはしばしばあります。
― 排便障害をきっかけに、うつ病になって自ら命を絶たれてしまうケースもあると聞きました。
金光先生 はい。なので、肛門を残すかどうかの判断は、慎重にならないといけません。当院にも、他院で肛門を残す手術を選択し、数年経って重症化した患者さんがご相談にくることがあります。そのようなケースでは、大掛かりな処置が必要になってしまうことも珍しくありません。
実際には、慣れてしまえば、逆にトイレに行かなくて済むぶん、ストーマの方がずっと楽という見方もできるんですよ。確かに最初半年ぐらいは皆さん苦労されるんですが、だんだん慣れていって、うまく付き合って生活している患者さん方が多いです。高齢者の方なんかは「むしろこっち(ストーマ)の方がいいです」って、笑顔で言われる方もいらっしゃいますよ。
仕事の復帰時期は、ご自身で判断していただくのがよいと思います。
― ストーマをつける生活になった場合、スポーツなど激しい運動はまたできるようになるものなのでしょうか?
金光先生 程度によるとは思いますが、スポーツも普通にできるようになりますよ。ゴルフなんかは余裕でできますし、スキューバダイビングをやっている患者さんもいます。周りのダイバーにも気づかれないで、大腸がんになったことを話したら驚かれたらしいですよ。
あとは、温泉なんかも問題なく入れます。便を受け止めるパウチも種類があって、小さくて肌に近い茶色のもので便利で目立ちにくいものとかもあったりします。
― 仕事はいつから復帰できるのか、心配される方もいらっしゃるようですが、実際はどうなのでしょうか。
金光先生 私も患者さんからよく聞かれるのですが、これも基本的に制限はありません。私たちは、その患者さんの生活のディテールまではわからないですし、医療以外の仕事の内容もわかりません。なので、どれくらい身体に負担がかかるかは、ご自身が一番判断できると思います。
ですから、「自分で判断してください」と伝えています。手術の傷が大きい場合、腹筋の筋力が落ちてちょっと猫背で帰るくらいのことはありますが、それくらいしか後遺症みたいなものはないので、割とすぐ復帰できると思います。
― 最後にこの記事を読んでいる、読者の方に何かメッセージをいただけますか?
金光先生 病気のことに対して神経質になりすぎるのはよくありません。今言ったように、大腸がんになっても、基本的にはこれまで通りの生活ができるので、過度に落ち込む必要もありません。エビデンスは弱いものの、前向きに明るく生きている人の方が再発しにくいという報告もあります。
再発や転移について心配される方も多いと思いますが、実際にはステージ1の患者さんの再発率は5%程度。またここ数年、抗がん剤の進歩により、再発や転移が見つかったステージ4の患者さんでも予後の改善を図ることができるようになりました。
がんのことをあれこれ気にして生きるよりは、人生を楽しむことにフォーカスして生活していってほしいと思います。