がんの治療は、診察・検査・入院・手術などの費用と通院・入院時の交通費などを合わせると、年間で20~150万円程度の費用がかかるといわれています。ただし、がんの種類や進行度によって治療や生活にかかる費用は大きく変わります。がんの治療をされる方やそのご家族の方の中には、金銭的な心配をされている方も多いでしょう。そこで今回は、がんの治療費や生活費の負担を少しでも軽くする制度をシーン別にご紹介します。
1.治療費を少しでも抑えたい
1-1.1か月に支払った医療費の負担を減らすなら「高額療養費制度」
高額療養費制度とは、公的医療保険が適用される医療費のうち、自己負担分が一定の金額を超えた場合に、超過分が払い戻される制度です。自己負担分の金額に該当するのは、医療機関や薬局の窓口で1日~末日までの1か月に支払った合計額です。一定の金額は、以下の表のように年齢や所得によって変わってきます。
額療養費制度については、お手持ちの健康保険証のおもて面に「保険者」と書いてあるところが手続き先になります。利用する際は、各窓口で相談してみてください。
70歳以上の方の上限額などの詳細は、以下のサイトで確認できます。
国立研究開発法人国立がん研究センター「医療費の負担を軽くする公的制度」
1-2. 窓口での自己負担額を最小限に抑えるなら「限度額適用認定証」
高額療養費制度では、自己負担分が一定の金額を超えた場合に、超過分が払い戻されますが、上限額を上回ることが事前に分かっている場合は、限度額適用認定証の手続きを行いましょう。限度額適用認定証を医療機関の窓口に提示することで、医療機関ごとにひと月の支払額が自己負担限度額までに抑えられます。
高額療養費制度などの払い戻しの手続きが不要な上に、一時的な支払いをなくせるので金銭的な負担を減らしたい場合に便利です。
詳細は、以下のサイトで確認できます。
全国健康保険協会「限度額適用認定証」 なお、2021年10月から、マイナンバーカードを健康保険証として、利用できるようになっています(事前登録は必要)。その場合、限度額適用認定証の手続きは不要です。
1-3. 同じ医療保険に加入する家族がいる方にお得な「高額介護合算療養費制度」
高額介護合算療養費制度は、毎年8月を起点に1年間にかかった医療保険と介護保険の自己負担額を合算した金額が、基準額を超えた場合に超過分の金額を支給する制度です。制度の対象は、世帯内で同じ医療保険に加入している方です。基準額は世帯の所得や年齢構成によって異なるので、以下の協会けんぽのホームページで確認してみてください。
全国健康保険協会「高額療養費・70歳以上の外来療養にかかる年間の高額療養費・高額介護合算療養費」
1-4. 高額療養費制度に該当しない方でも利用できる「医療費控除」
医療費控除は、毎年1月1日~12月31日までの1年間に、一定金額以上の医療費を自己負担した場合、納税額の一部を還付する制度です。医療費控除額は、以下の計算式で算出できます。
〔自己負担した医療費の合計額〕-〔保険金などで補填される金額〕-〔10万円(または申請する年の総所得金額等が200万円未満の人は総所得金額等の5%の金額)〕=医療費控除額(最高200万円)
控除の対象になる医療費の一例は以下の通りです。
- 医師・歯科医師による診療・治療にかかった費用(セカンドオピニオンを含む)
- 治療・療養目的で購入した薬代(市販薬を含む)
- 治療目的の施術費用(マッサージ・指圧師・鍼灸しんきゅう師・柔道整復師など)
- 通院時の公共交通機関を利用した場合の交通費(自家用車を利用した場合のガソリン代・駐車料金は除く)
- 入院時の個室料金(空きベッドがないなどやむを得ない事情がある場合等)
- 入院時の食事代
- 医療器具の購入費・レンタル料金
- 介護保険サービスの利用料金(療養上の世話の対価として払った金額)
- 医療機関・介護施設の利用料金(訪問看護・ショートステイなど)
詳細は、以下のサイトで確認できます。
1-5. 経済的な理由で医療サービスを諦める前に利用したい「無料低額診療事業」
無料低額診療事業は、経済的な理由で適切な医療サービスを受けられない方を対象に、無料または安い費用で診療を行う事業のことです。申込方法や減免基準については、医療機関によって異なるので、制度の詳細と利用できる医療機関などを自治体のホームページで確認する、もしくはお住まいの管轄の福祉事務所(市役所の福祉担当など)に相談しましょう。
詳細は、以下のサイトで確認できます。
2.生活にかかるお金が必要
2-1. 低所得世帯などが無利子で資金を借りられる「生活福祉資金貸付制度」
生活福祉資金貸付制度は、低所得世帯や障害者・高齢者の世帯などを対象に、低利または無利子で資金の貸付・相談・支援を行う制度です。がんの治療のために退職せざるを得ない場合や、症状が安定して再就職を希望しているものの就職先が見つからず生活に困窮している場合などに、制度を利用できる可能性が高まります。
生活福祉資金の貸付金には次のようなものがあります。
- 総合支援資金
- 福祉資金
- 教育支援資金
- 不動産担保型活資金
詳細は、以下のサイトで確認できます。
2-2. 公的医療保険の被保険者の「傷病手当金」
傷病手当金は、会社員や公務員などの被用者が、ケガや病気で休業し、給料が支給されない場合に給付金が支給される制度です。 給付期間は、1つの傷病につき支給開始日から最長1年6カ月です。2022年1月1日以降、支給期間の通算化が実施され、支給期間中に途中で就労するなど、傷病手当金が支給されない期間がある場合、支給開始日から起算して1年6か月を超えても、繰り越して支給できるようになっています。傷病手当金についてくわしく知りたい場合は、加入している協会けんぽや健保組合、共済組合の窓口に問い合わせてみてください。
2-3. 雇用保険に加入していた方の「雇用保険による基本手当(失業給付)」
雇用保険の基本手当は、働きたい意思と能力があるものの就職できない失業中の方に給付される手当です。がんの治療をしながら仕事を続ける方も増えていますが、やむを得ず退職しなければならない場合もあるでしょう。その後、働ける状況になったときに、再就職先が見つかるまで、退職理由や加入期間、年齢等に応じた期間、基本手当を受けることができます。対象者は65歳未満の雇用保険の被保険者のうち、以下の条件に該当する方です。
- 失業していること
- 退職日以前の2年間に被保険者期間が通算12カ月以上ある方
受給期間は退職の翌日から1年間が原則です。がんを含む治療などの理由で、引き続き30日以上働くことができない場合は退職後に受給延長手続きを済ませておけば、受給期間を最長3年延ばして、合計4年まで延長できます。
なお、2017年4月1日から、受給期間延長の申請期限が変更され、すぐに手続きできなくても、延長後の受給期間の最後の日までの間であれば申請できるようになっています。お住まいの地域を管轄するハローワークに申請しましょう。
2-4. 放射線治療や乳がん手術を受けられた方には「医療用ウィッグ、胸部補整具の助成金」
医療用ウィッグは公的医療保険や医療費控除の対象にはなっていません。しかし、抗がん剤治療を受けた方を対象に、医療用ウィッグの助成金を設けている自治体があります。また乳がんなどで乳房を摘出後の手術跡をカバーするための胸部補整具に対し、補助金制度を設けている自治体もあるので、お住まいの自治体に問い合わせることをおすすめします。
3.身体的な不安や障害が残ってしまった
3-1. 介護保険制度
介護保険制度は、40歳以上の被保険者を対象にした介護保険サービスを受けられる制度です。65歳以上の第1号被保険者は、介護が必要とする状態になった場合、病気を問わず利用できますが、40歳から64歳までの第2号被保険者は、利用できるのは指定された「特定疾病」に該当する場合のみです。がんの場合は、治癒を目的とした治療が難しくなり、生活で何らかの介護が必要になったときに、介護保険を申請できます。お住まいの自治体の担当窓口で申請できます。
3-2. 障害年金
障害年金は、ケガや病気によって一定の障害が残り、生活・仕事などが制限されてしまう方が利用できる公的年金制度です。現役世代の方でも障害年金を受け取ることができます。ほかにも、障害の原因になったケガや病気の初診を受けた時点で国民年金に加入していた方は、障害基礎年金を受け取れます。一方で、障害厚生年金の対象は、同時点に厚生年金へ加入していた方です。
詳細は、以下のサイトで確認できます。
3-3. 身体障害者手帳
身体障害者手帳は、原因に関わらず身体に障害がある方を対象に、日常生活での不自由をサポートするためのさまざまな助成・支援を受けられる福祉制度です。がん患者の方は、以下に該当する場合に制度を利用できます。
- 膀胱がん・直腸がん(膀胱・直腸機能障害):人工膀胱・人工肛門(ストーマ)などを造設している
- 頭頚部がん(音声・言語機能障害):咽頭部摘出により声を出す機能を失っている
- 肺がん(呼吸器機能障害):呼吸機能低下によって在宅酸素療法が必要
詳細は、以下のサイトで確認できます。
3-4. 重度心身障害者医療費助成制度
重度心身障害者医療費助成制度は、心身に重度の障害がある方を対象に、医療費を助成する制度です。医療費の自己負担分(1~3割程度)は、登録済みの金融機関の口座に払い戻されます。入院時の食事代や個室を利用した際の差額ベッド代、先進医療の治療費などは対象外です。
重度心身障害者医療費助成制度の詳細については、お住まいの地域の福祉事務所や福祉担当課の窓口に相談しましょう。
お金の悩みは「がん相談支援センター」に相談を!
「どの制度を利用できるのかわからない」「医療費が払えるか心配」という悩みがある方は、誰でも無料で相談できる「がん相談支援センター」を利用してみてください。また、がんと働く応援団のように、仕事とがん治療を両立できるよう支援してくれる団体に相談してみることをおすすめします。きっと、あなたに寄り添い、親身になってアドバイスをしてくれるでしょう。
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記事監修:
黒田尚子(くろだ なおこ)
保有資格:CFP®・1級FP技能士・CNJ認定乳がん体験者コーディネーター・消費生活専門相談員資格
1998年FPとして独立、NPO法人がんと暮らしを考える会・理事、城西国際大学・経営情報学部非常勤講師を務める。2009年末に乳がんの告知を受け、自らの体験から、がんなど病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動を行う。